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ネコフリークス大学Neko Freaks University
講座061第2回 / 全5回

1匹・左右2つの肛門嚢——16S・培養・GC-MS

オスのベンガル猫1匹の左右の肛門嚢分泌物を、16S rRNA遺伝子解析、嫌気培養、GC-MSへ分けた研究手順を読みます。採取条件、各方法、対照の役割を整理します。

いち教授
いち教授
講座061

導入会話

マロン学長「左右から採ったなら、試料は二つ。猫も二例みたいに考えていい?」

いち教授「左右は同じ1匹の中にある。独立した2匹ではないよ。」

マロン学長「DNA、培養、化学分析は、同じことを三回測ったの?」

いち教授「それぞれ別の問いに答える方法なんだ。順番に地図を作ろう。」

この回でわかること

  • 試料がどのような場面で採取されたか
  • 16S解析、培養、GC-MSが見る対象の違い
  • 対照と選別基準が必要な理由

論文を深く読む

対象は、アジアベンガルヤマネコと家庭猫の交雑に由来するオスのベンガル猫1匹でした。飼い主が通常の獣医診察の一部として肛門嚢の圧出を依頼していました。研究のために新たに処置したのではありません。

飼い主の同意を得て、Berkeley Dog and Cat Hospitalの獣医師が左右の肛門嚢から分泌物を採取しました。この点は家庭での再現と切り離す必要があります。論文は、圧出方法、ケア効果、症状、受診判断を比較した研究ではありません。

採取できたことは、家庭で採取してよいという根拠ではありません。

7本と16S用3本を読み分ける

試料採取節は、合計7本のスワブを使ったと説明します。16S rRNA遺伝子解析用2本、GC-MS用3本、培養用2本です。

直後の16S方法節には、左の試料1本、右の試料1本、未使用の対照スワブ1本の計3本を使ったとあります。ここで増えた1本は猫から採取した試料ではなく、何も採っていない陰性対照です。

対照スワブにもDNA由来の信号が出ることがあります。著者らはDADA2処理後、陰性対照に見つかった52のASVを解析から除きました。そのうち3つは肛門嚢試料にもありました。対照を置くことで、試薬や器具、処理過程から入った可能性のある信号を減らしています。

16S解析は細菌の配列を見る

16S rRNA遺伝子は、細菌を分類する手がかりとして使われます。研究ではV4–V5領域を増幅し、Illumina MiSeqで配列を読みました。DADA2で品質管理を行い、Silvaデータベースを使って属レベルへ分類しました。

この方法が示すのは、解析を通過した配列リードがどの分類群へ割り当てられたかです。生きた菌の個数を直接数えるわけではなく、代謝活動を測るわけでもありません。リード割合を、肛門嚢の体積の何割が細菌かという意味にもできません。

培養は増やせた菌を見る

別の試料は、酸素の少ない嫌気条件で培養しました。見た目の異なるコロニーを分離し、各培養物の16S rRNA遺伝子を読んで分類しました。

培養で得られるのは、その培地、温度、時間、酸素条件で増えた菌です。試料にいた全ての菌が同じ条件で増えるとは限りません。配列解析で見えた群集と、培養できた菌の名簿が完全には一致しないのは自然です。

研究では25分離株を得ました。その中から、配列データでも比較的豊富で、培養にも成功した3菌株を化学分析へ進めました。

GC-MSは化合物の候補を探す

SPMEは、容器内の気相へ出た物質を細いファイバーへ吸着させる方法です。GCで混合物を時間差で分け、MSで質量スペクトルを測ります。肛門嚢試料と3菌株の培養物を同様に分析し、共通する化合物候補を比較しました。

ピークは各処理の反復の60%以上にあり、平均で対応する対照の3倍を超えるものが解析対象です。菌培養には培地のみの対照や容器のブランクがあり、肛門嚢試料には未使用スワブの対照があります。

化合物名はライブラリの質量スペクトルと保持指標からの暫定同定です。名前が表に載っていても、真正標準品を使って全て確定したわけではありません。

三つの方法をつなぐ

16S解析は「どの分類群の配列が多かったか」、培養は「どの菌を取り出して増やせたか」、GC-MSは「どの化合物候補があったか」を見ます。

同じ試料を起点に三つをつなぐことで、豊富だった分類群から得た菌株が、元の分泌物にもある化合物を作るかを探索できます。ただし、各方法には見える範囲と見えない範囲があります。

今日からできること

  • 論文の対象数を、試料数や左右の数と分けて読む
  • 16S、培養、化学分析が同じ対象を直接測るわけではないと整理する
  • 対照と選別基準が書かれているか確認する

まとめ会話

マロン学長「左右の試料があっても、対象は1匹なんだね。」

いち教授「うん。16Sは配列、培養は増やせた菌、GC-MSは化合物候補を見る。」

マロン学長「未使用スワブや培地の対照も、信号を選ぶために必要なんだ。」

次回予告

次回は、配列リードの98%が6属へ割り当てられ、培養で25分離株が得られた結果を読みます。なぜ詳しい分析は3菌株に絞られたのでしょうか。

参考文献

Yamaguchi MS, Ganz HH, Cho AW, et al. PLOS ONE. 2019;14(9):e0216846.

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