少ない行動ほどAIが迷うのはなぜ?
猫の12行動を学習した研究から、100〜100,000秒の35段階で分類性能がどう変わったかを紹介します。横になる・歩くと、疾走・飛びかかりの差からデータの偏りを読みます。

導入会話
マロン学長「ぼくは寝ている時間が長いけど、飛びかかるのは一瞬だよ。」
いち教授「その時間差が、学習できる例の数にも表れるんだ。」
マロン学長「もっと長く撮り続ければ、珍しい行動も同じだけ集まるのかなあ?」
いち教授「総時間を増やすだけでなく、必要な行動を正しく集める工夫もいるよ。」
この回でわかること
- 学習量と感度の関係
- 多数派と少数派の行動の違い
- ランダムフォレストとの比較の読み方
100秒から100,000秒まで比べた
研究者はCatBibなしのデータから、100〜100,000秒の範囲で35種類の学習量を無作為に選びました。各量を10回反復して自己組織化マップを作りました。
感度は2,000秒から10,000秒にかけて大きく向上し、20,000秒を超えると伸びが緩やかになりました。例を増やせば常に同じ割合で良くなるわけではなく、ある程度から追加データの効果が小さくなる形です。
ただし、これは全行動をまとめた傾向です。同じ20,000秒でも、横になっている秒は多く、短い疾走は少ないかもしれません。総学習量だけでは、各行動を何例見たかはそろいません。
学習時間を増やすことと、全ての行動の例を均等に増やすことは同じではありません。
よくある行動は早く覚えた
横になる、歩く、食べる/飲むは頻度が高く、1,000秒未満の学習例でも約99%の精度と報告されました。波形の違いが比較的はっきりしていた可能性と、似た例を繰り返し学べたことの両方が考えられます。
疾走は715例、飛びかかりは3,884例で、精度は76%、83%でした。短い行動は前後の動きとの境目も難しく、1秒区間の中に別行動が混ざることがあります。似た加速を持つ跳躍や速歩と混同する可能性もあります。
珍しい行動の性能を上げるには、その行動を含む動画を追加する、区間の切り方を検討する、個体や状況を広げるなどの方法があります。ただし行動を無理に起こさせ、猫へ負担をかけてまでデータを集めるべきではありません。
少数行動の弱さはAIの気まぐれではなく、例数、境界、似た波形という学習条件から生じます。
マロン学長「長く寝る例ばかり増えても、短い飛びかかりの練習にはならないんだ。」
SOMとランダムフォレスト
同じ20,000秒で、研究者はSOMとランダムフォレストも比べました。SOMは全体正解率、適合率、特異度が高く、ランダムフォレストは多くの行動で感度が高い傾向でした。
12行動中9行動ではSOM、疾走と飛びかかりではランダムフォレストが高く、横になるは同等でした。SOMの計算時間7.55秒、ランダムフォレスト13.56秒とも報告されています。
この秒数は研究で使った機器、ソフトウェア、設定、データ量に依存します。SOMがいつでも約2倍速いとは言えません。また、平均的な指標の高さだけで手法を選ぶのではなく、調べたい行動を拾う感度や、結果を確認する方法も必要です。
最良のモデルは一つに決まらず、見逃しと誤検出のどちらを重く見るかで評価が変わります。
家庭向け製品で「AI搭載」と表示されていても、学習に使った猫、行動ごとの例数、未知個体での検証が公開されていなければ、本研究の数値を代わりに当てはめることはできません。
今日からできること
- 総データ量と行動別の例数を分けて見る
- 平均性能だけでなく目的の行動の感度を見る
まとめ会話
マロン学長「よくある行動は例が集まりやすく、珍しい動きは学びにくいんだね。」
いち教授「境目や似た波形も影響するから、例数だけの問題でもないよ。」
マロン学長「モデル比較も、何を見逃したくないかで答えが変わるんだね。」
いち教授「その通り。最後は家庭用センサーとの距離を整理しよう。」
次回予告
第5回は、装着物で波形が変わった結果から、研究用分類と家庭用機器で言える範囲を分けます。
参考文献
- Galea N, et al. Scientific Reports. 2021;11:13566. https://doi.org/10.1038/s41598-021-92896-4