論文要約:猫に選んでもらう撫で方——100匹・120人のCATガイドライン実験
Haywood et al. (2021). Frontiers in Veterinary Science, 8, 714143 (2021)

論文の概要
猫へ触れる時、人が手を動かし続けるのではなく、猫が近づく・離れる・続きを求める選択を残したら、猫の反応は変わるのでしょうか。
Haywoodらは、Choice and Control、Attention、Touchの頭文字を取った「CAT」指針を作り、英国の譲渡施設で実験しました。一般参加者120人は訓練前に3匹、5分の訓練後に別の3匹と各5分接しました。解析対象は人へ社会化された猫100匹、最終データは535観察です。
訓練後、人の接し方は指針へ近づき、猫の親和的・肯定的関連行動が増え、対立・葛藤関連行動が減りました。一方、身体接触の総時間は訓練前の方が長く、接触時間だけを快適さへ変換できない結果でした。
研究デザイン
- 英国Battersea Dogs and Cats Homeで2020年1月20日〜3月13日に実施
- 当初114匹から14匹を除外し、100匹を解析
- 猫は93%避妊去勢済み、42%オス、58%メス、平均6.1歳
- 参加者120人、90%女性、57%が猫と同居
- 参加者は訓練前に3匹、5分訓練後に別の3匹と各5分接した
- 猫は最大6観察を受け、条件、時刻、人がそれまでに会った猫の数をバランス化
- 586動画を符号化し、535観察から最終データを抽出
- 47行動を記録し、信頼性を満たした31指標を比較
- 猫ごとの条件平均を対応のあるWilcoxon符号順位検定で比較
- 31指標にBonferroniなどの多重比較補正は行わなかった
主な発見
人の接し方は指針へ近づいた
CAT指針への適合得点は、訓練前平均1.7189から訓練後2.803へ上がりました(1〜3点、p<0.001、r=0.866)。短い説明後に、人がCATに沿う接し方へ変えられたことを示します。
親和的・肯定的関連行動が増えた
訓練後は、人へのすり寄り頻度、前足でこねる時間、人を嗅ぐ時間、耳を前・中立に保つ時間などが増えました。人へ近づく頻度と接触開始回数には有意差がありませんでした。
対立・葛藤関連行動が減った
威嚇、唸り、叩く、噛むをまとめた対立得点は訓練前で高く、効果量は中程度でした(p=9.111e-05、r=0.380)。少なくとも1観察で対立行動があった猫は、訓練前27%、訓練後16%でした。これは噛みつき率ではなく、複数の対立行動を含む猫の割合です。
回避、固まる、急な毛づくろいなどの葛藤・否定的関連行動も訓練前で高く、尾を強く振る、耳を伏せる・回す行動も多く見られました。
接触時間は訓練前の方が長かった
身体接触の平均時間割合は訓練前0.6795、訓練後0.6057でした。訓練後に手を控える接し方へ変わったためと著者らは考察していますが、猫と人のどちらが接触を始めたかは区別していません。
人から見た猫の印象は変わらなかった
「友好的」「快適そう」「譲渡したい」という評価に有意差はありませんでした。猫へ選択を返す接し方によって、人の印象が悪くなったとは示されませんでした。ただし、実際の譲渡率は測っていません。
原著を読む時の注意
参加者は全員、訓練前3匹、訓練、訓練後3匹の順で接しました。猫側の条件順と時刻はバランス化しましたが、人側では訓練効果と、最初の3匹で得た経験、時間経過、疲れを完全には分けられません。
31行動指標をp<0.05で比較し、多重比較補正を行っていないため、個々の有意差には偶然が含まれる可能性があります。多くの動画は主要評価者が条件を知った状態で符号化し、人の接し方得点も主観的尺度です。
表2の Sniff_dur 訓練後SDは0.6072ですが、平均0.0467、中央値0.0231、SE0.0067と整合しにくく、小数点の誤記の可能性があります。本要約ではこのSDを使用しません。
この研究で断定できないこと
- 家庭の飼い主と愛猫でも同じ大きさの効果が出ること
- 怖がり、強いストレス、攻撃行動の多い猫でも同じ結果になること
- CAT指針に従えば噛む・叩く行動がゼロになること
- 3〜5秒がすべての猫に最適な固定時間であること
- 頭周りなら、どの猫も触られることを好むこと
- 接触時間の長短だけで猫の快適さが分かること
- 指針で譲渡率や長期的な関係が改善すること
- 医療処置、保定、抱き上げ、爪切りへそのまま使えること
暮らしへのヒント
猫へ触る前に、座った位置から手を静かに差し出し、猫が近づくかを待ちます。接触がなければ撫でず、猫が離れたら追いません。
触る時は耳の付け根、頬、あご周りから短く始め、3〜5秒で一度止めます。すり寄り直す、近くへ残る、離れる、顔を背ける、耳を回す、尾を強く動かすなど、その後の選択を見ます。
この手順は猫へ選択を返す観察方法で、事故防止の保証や医療的な保定方法ではありません。急な行動変化や体調の不安がある場合は、記事だけで判断せず獣医師へ相談してください。
よくある質問
参加したのは家庭猫ですか?
譲渡施設の個別猫舎で暮らし、人へ社会化され、家庭へ譲渡可能と判断された猫です。家庭で飼い主と長期的に暮らす場面は直接調べていません。
27%から16%は噛みつき率ですか?
いいえ。威嚇、唸り、叩く、噛むのいずれかが、各条件の少なくとも1観察で見られた猫の割合です。事故率や個々の行動頻度ではありません。
なぜ接触時間は訓練前の方が長かったのですか?
訓練後は人がより手を控えた可能性があります。ただし測定は接触の開始者を区別していないため、長い・短いだけで猫の快適さを判断できません。
訓練効果は確実ですか?
有望な前後差ですが、参加者の順序が固定され、並行無作為対照ではありません。非盲検、多重比較補正なしなどの限界もあるため、効果の大きさをそのまま家庭へ一般化できません。
猫に選んでもらう撫で方——100匹で試したCATルール
英国の譲渡待ち猫100匹と一般参加者120人を対象に、5分のCATガイドライン訓練前後で人の接し方と猫の行動を比べた研究です。近づく・離れるを猫に任せ、3〜5秒ごとに手を止め、耳の付け根・頬・あご周りから触る方法を、実験の限界とともに全5回で読みます。