論文要約:うちの猫、本当に「怠け者」?加速度センサーで見た1日
Smit et al. (2024). Sensors, 24(8), 2623

論文の概要
Smit et al.(2024)は、ニュージーランドの一般家庭で飼われている猫28匹に首輪型の加速度センサーを装着し、機械学習モデルを使って「活動的」「食事」「毛づくろい」「排泄」「伏せる」「体をかく」「座る」「立つ」という8つの行動を客観的に記録した研究です。屋外アクセスの有無、都市部か地方か、多頭飼育か単頭飼育か、家庭に子どもがいるか、そして季節(夏・冬)といった家庭環境の違いが、猫の日々の過ごし方にどう関係するかを分析しています。
「猫は怠け者」というイメージがありますが、この研究はそのイメージを、実際のセンサーデータで裏付けたり、環境によって変わる部分を明らかにしたりする試みです。
論文の位置づけ
これまでの猫の行動研究の多くは、シェルターや実験施設など「家庭ではない環境」で行われてきました。この論文は、実際に家庭で暮らす猫を対象に、首輪型センサーという客観的な方法で行動を記録した点が特徴です。
この論文は、猫の病気や健康問題を扱うものではありません。あらかじめ関節炎や腎疾患などの持病がある猫は除外されており、健康な猫を対象にした行動生態学の研究として読む必要があります。
なお、当サイトには、猫舎で集団飼育される猫の食事・活動の日周リズムを扱った別の講座(cat-daily-activity-rhythm)もあります。あちらは施設で暮らす猫の日内リズムに焦点を当てているのに対し、この論文は一般家庭の飼い猫を対象に、屋外アクセスや多頭飼育といった環境要因の違いを比較している点が異なります。
研究デザイン
対象は、ニュージーランドのマナワツ・ワンガヌイ地方に住む猫たちです。動物病院や大学構内でのチラシ配布を通じて、61人の飼い主・89匹の猫の情報を含む質問票を回収しました。年齢(1〜10歳)や地域、健康状態(関節炎、尿路/腎疾患、糖尿病、甲状腺機能亢進症などがないこと)の基準で絞り込み、最終的に60匹が対象基準を満たしました。
夏(2022年12月〜2023年2月)と冬(2023年6月〜8月)の2つの期間、それぞれ猫に首輪型の加速度センサーを6日間かけて慣らしたのち、7日間連続でデータを収集しました。機械学習モデル(精度73%)を使って、加速度データから8つの行動を1秒ごとに識別しています。最終的に、夏・冬両方のデータが揃った28匹が分析対象となりました。
主な発見
1. 猫は1日の86%を「不活発」に過ごしている
全体として、猫が活動的だった時間はわずか2.8%でした。食事5.5%、毛づくろい5.5%、排泄0.04%、体をかく(かゆみ行動)0.12%に対し、伏せる36.7%、座る36.6%、立つ12.7%と、「不活発」な行動(伏せる・座る・立つ)の合計は86%に達しました。
2. 屋外アクセスがある猫は、夏の方が活発だった
屋外アクセスがある猫は、屋内飼育のみの猫より、夏・冬いずれも活動的な時間が長い傾向がありました。さらに、屋外アクセスがある猫は夏より冬の方が活動が少なかった一方、屋内飼育のみの猫には季節による差が見られませんでした。若い猫(1〜3歳未満)は、成猫・高齢猫より活動的でした。
3. 地方の猫は都市部の猫より食事時間が長かった
地方(田舎)に住む猫は、都市部に住む猫より、食事に費やす時間が長い傾向がありました。地方の猫は夏より冬の方が食事時間が長いという結果も出ています。
4. 単頭飼育か多頭飼育かで、過ごし方が違った
単頭飼育の猫は、多頭飼育の猫より伏せている時間が長く、座っている時間が短い傾向がありました。論文では、多頭飼育の猫の方が、周囲への警戒レベルがやや高い可能性が考察されています。
5. 1日の活動パターンは「二峰性(薄明薄暮性)」だった
夏・冬いずれも、活動と食事を中心に、明け方と夕方にピークを持つ「二峰性」のパターンが見られました。このパターンは日の出・日の入りの時間帯と重なっており、屋外アクセスのある猫や地方在住の猫でより明確に見られました。
この研究で断定できないこと
この研究の最終的なサンプルサイズは28匹と小規模で、ニュージーランドの1つの地域に限定されています。持病のある猫はあらかじめ除外されているため、健康な猫についての知見であり、体調不良の猫にそのまま当てはまるとは限りません。
飼い主が在宅していたかどうかのデータは収集されておらず、人の存在が猫の活動性に影響する可能性については、今後の研究課題とされています。また、狩猟行動そのものは直接測定されておらず、夏の屋外猫の活動増加が狩猟によるものかどうかは推測の域を出ません。
数値で見るポイント
- 最終的な分析対象は28匹(当初89匹の情報から段階的に絞り込み)
- 猫が活動的だった時間の割合:2.8±0.25%
- 「不活発」な行動(伏せる・座る・立つ)の合計:86%
- 屋外アクセスのある猫は夏・冬いずれも活動時間が長い(p<0.05〜0.001)
- 地方の猫は都市部の猫より食事時間が長い(p<0.05)
- 単頭飼育の猫は多頭飼育の猫より伏せる時間が長く、座る時間が短い(p=0.050、p=0.005)
- 夏は05:00〜09:00と20:00〜23:00頃、冬は06:00〜08:00と16:00〜19:00頃に活動のピーク
暮らしへのヒント
猫が1日の大半を伏せたり座ったりして過ごしているのは、決して「怠けている」わけではなく、猫という動物にとって自然な過ごし方だと言えそうです。数値だけを見て「うちの子は運動不足では」と不安になる必要はありません。
一方で、屋外アクセスの有無や季節によって活動量が変わることを知っておくと、屋内飼育の猫にも、明け方や夕方など活動が高まりやすい時間帯に合わせて遊びの機会を用意する、といった工夫のヒントになります。
多頭飼育の猫がやや警戒的な様子を見せやすいという指摘も、多頭環境での資源配置(隠れ場所や高い場所など)を見直すきっかけになるかもしれません。
この研究はニュージーランドの一地域・28匹という小規模な調査です。ここで紹介した数字を「普通はこうあるべき」という基準にするのではなく、猫の行動を理解するための一つの視点として活用してください。持病がある猫の活動量の変化については、この研究の対象外であるため、気になる場合は獣医師に相談することをおすすめします。
うちの猫、本当に「怠け者」?——センサーが見た1日を読む
ニュージーランドの飼い猫28匹に首輪型加速度センサーを付け、機械学習で行動を記録した研究を全5回で読みます。屋外アクセス・季節・多頭飼育などの環境要因と、猫の過ごし方の関係を整理します。