論文要約:猫の性格はどう測る?——4,316匹で検証した7つの特性
Mikkola et al. (2021). Animals

論文の概要
Mikkolaらの2021年の研究は、フィンランドの飼い主が回答したオンライン質問紙から、猫の行動・性格を表す7因子を抽出し、同じ人の再回答、別の同居人の回答、先行研究から立てた仮説との対応を使って測定品質を確かめました。
一匹を7タイプのどれかへ分類する性格診断ではありません。各猫が複数の因子について連続的な得点を持つ、集団研究用の尺度です。
研究デザイン
猫の行動を多数集めるには、日常を知る飼い主の回答が役立ちます。一方、質問紙には回答者の見方、観察した場面、言葉の解釈が入ります。良い質問紙には、同じ条件なら似た結果が出る「信頼性」と、意図した特性を測っている根拠である「妥当性」が必要です。回答数が多いだけでは、どちらも保証されません。
質問紙はFe-BARQを主な基礎に、フィンランドの猫飼育事情へ合わせて作られました。獣医師や行動専門家など9人が内容を確認し、行動区分は138項目になりました。初期データ4,494匹から、不確かな年齢、名前・性別の不足、死亡情報、重複、欠測の多い回答などを除き、4,316匹を分析しました。募集は主にソーシャルメディアで、無作為抽出ではありません。
本研究は、因子を抽出するだけでなく、内的一貫性、再検査、別回答者、外部仮説、因子同士の重なりを確認しました。
主な発見
1. 138項目から7因子を抽出した
抽出された7因子は、怖がり、活動性・遊び好き、人への攻撃行動、人への社会性、猫への社会性、過剰グルーミング、トイレ問題です。7因子でデータの分散の43%を説明しました。最初の5つは性格因子、最後の2つは行動関連因子です。
過剰グルーミングやトイレ問題の得点を「そういう性格」と固定するのは不適切です。健康、環境、利用できる資源など、質問紙だけでは分からない背景があります。
2. 同じ人の再回答は平均0.83、別の人の評価は平均0.72〜0.83で一致した
同じ飼い主が36〜106日後に再回答した127匹では、因子得点の相関が0.69〜0.92、平均0.83でした。時間をおいても順位が比較的保たれたことを示しますが、同じ人の見方が一貫している可能性も含み、猫の行動が環境や体調にかかわらず生涯固定される証明ではありません。
同じ猫を知る別の成人が答えた41匹では、単一評価者のICC(1,1)が0.61〜0.87、平均0.72でした。複数評価者の平均に相当するICC(1,k)は0.75〜0.93、平均0.83でした。同じ猫でも別の人の評価は完全には一致せず、家族で評価が違う時、どちらかが猫を見誤っているとは限りません。一緒にいる時間や場面が違えば、見える行動も変わります。
3. 25仮説のうち22を支持した
先行研究から立てた25仮説のうち22が予想通りでした。支持されなかった3つは、雄の方がトイレ問題得点が高い、多頭飼育でトイレ問題得点が高い、問題行動ありと答えた飼い主の猫は人への社会性が低い、という仮説です。因子同士の相関も大半が小さく、絶対値0.30を超えたのは人への攻撃行動と猫への社会性の r=-0.31だけでした。
これらは尺度の妥当性を支える材料ですが、診断精度や個体の将来予測を検証した結果ではありません。
4. 品種群の全体差はあるが、個体の予測には使えない
26品種群の全体検定は7因子すべてで有意でした。しかし、研究はすべての品種ペアを比較しておらず、年齢、環境、性別、不妊・去勢などを同時に調整していません。品種は飼い主申告で、品種への期待が回答へ影響した可能性もあります。著者らも、この論文だけで特定の品種同士が異なるとは言えないとしています。群の平均順位を、目の前の一匹の性格、相性、迎えやすさへ当てはめられません。
この研究で断定できないこと
- 猫の性格が7タイプのどれかに決まること
- 一度の回答で本当の性格を診断できること
- 高得点の行動が問題、病気、ストレスを意味すること
- 品種を見れば個体の性格や相性が分かること
- 性格に合わせた特定の介入が有効であること
- フィンランド語質問紙を日本語へ直訳して同じ精度で使えること
自己選択型のオンライン飼い主調査で、フィンランド向け質問紙のため日本語版は未検証です。直接観察ではなく飼い主回答であり、再検査127匹・別回答者41匹は全体より小さい規模です。過剰グルーミングとトイレ問題の内的一貫性は低めで、品種情報や一部の基本情報(性別未回答3匹はニックネームから分類)も確認できません。品種のペア比較・多変量調整・不妊去勢の影響分析はありません。
なお、調査プラットフォームPetsofi Ltd.について、最終著者は共同創業者、別の著者1人はデータ収集時の従業員でした。参考情報として見ておくとよいです。
数字で見るポイント
- 138項目・9人: 行動区分の質問項目数、内容確認をした専門家の人数
- 4,494匹→4,316匹: 初期データと最終分析対象(不確かな年齢・重複・欠測などを除外)
- 7因子・43%: 抽出された因子数と、それが説明したデータ分散の割合
- 127匹・平均0.83: 再検査(同じ回答者、36〜106日後)の因子得点相関
- 41匹・平均0.72/0.83: 別回答者によるICC(1,1)/ICC(1,k)
- 25仮説中22: 支持された収束的妥当性の仮説数
- r=-0.31: 唯一絶対値0.30を超えた因子間相関(人への攻撃行動と猫への社会性)
- 26品種群・44〜1,012匹: 品種群の数と、各群の頭数の範囲
暮らしへのヒント
質問紙の考え方は、猫へ性格ラベルを貼るためではなく、観察を具体化するために使えます。
- 「怖がり」ではなく、何に近づかれた時に隠れたか
- 「遊び好き」ではなく、どの遊びを何分続けたか
- 「社交的」ではなく、誰へどの距離まで近づいたか
- 一度だけか、別の日や場面でも続いたか
急な過剰グルーミングやトイレの変化を性格で片づけず、必要な確認へつなげます。ラベルより、場面・行動・時間の記録を残すことが安全な持ち帰りです。
よくある質問
Q. 猫を7タイプへ診断する質問紙ですか?
いいえ。138項目から7つの連続的な因子を抽出した研究で、猫を七つの箱へ分ける性格診断ではありません。
Q. 過剰グルーミングとトイレ問題も性格ですか?
原著は後ろ二つを行動関連因子として区別しています。性格の固定的な特徴とは扱いません。
Q. 同じ猫なら同じ結果になりますか?
127匹の再検査と41匹の別回答者で信頼性を調べましたが、完全一致ではなく、回答者や時期の影響は残ります。
Q. 品種で性格を予測できますか?
品種群全体の差は示されても、全ての品種ペアや個体の性格、遺伝的原因を決める結果ではありません。
参考文献
Mikkola S, Salonen M, Hakanen E, Sulkama S, Lohi H. Reliability and Validity of Seven Feline Behavior and Personality Traits. Animals. 2021;11(7):1991. https://doi.org/10.3390/ani11071991
猫の性格はどう測る?——4,316匹で検証した7つの特性
フィンランドの飼い主質問紙4,316匹から作られた7因子を、再検査、別回答者、妥当性、品種群比較の限界とともに全5回で読みます。