論文要約:猫の遊びは「暇つぶし」ではなく、しあわせの土台かもしれない
Henning et al. (2023). Animal Welfare

論文の概要
Henningら(2023)は、55か国1,591名の猫の飼い主を対象に、猫の遊びと福祉の関連を調べたオンライン横断調査です。ここでいう福祉は、猫がどれだけ「よい状態で暮らせているか」を広く見る考え方で、論文では猫のQOL、猫と飼い主の関係、遊びを控えたときの行動変化などが扱われています。
この論文が見ているのは、単に「長く遊んでいるか」だけではありません。猫の遊び好きな度合い、遊びの種類の多さ、毎日の遊び時間、猫と飼い主のどちらが遊びを始めるかといった点が、猫の生活の質や飼い主との関係とどう関わるかを検討しています。
主要メッセージ
- 猫のQOLスコアは、猫の遊び好きな度合いや遊びの種類の多さと関連していました。
- 毎日の遊び時間の長さは、QOLスコアとは有意に関連していませんでした。
- 一方、飼い主との関係スコアは、毎日の遊び時間、遊びの種類、猫と飼い主の両方が遊びを始めることと関連していました。
- 遊びを控えたとき、かまってほしがる行動、鳴き声、引きこもり、破壊的行動、攻撃的行動の増加が報告されています。
- 横断調査のため、「遊びを増やせば必ずQOLが上がる」とは断定できません。
研究デザイン
- 研究種別: Qualtrics XMを用いたオンライン横断調査
- 対象: 18歳以上で、1歳以上の猫の主な飼い主
- 参加者数: 55か国1,591名
- 調査期間: 2021年6月22日〜7月17日
- 主な尺度:
- 猫のQOL尺度: 猫の生活の質を飼い主回答で見る尺度
- CORS: Cat Owner Relationship Scale、猫と飼い主の関係を測る尺度
- APTS: Adult Playfulness Trait Scale、飼い主自身の遊び心を測る尺度
- 解析: 一般線形モデル、後退消去法
病院での診断データではなく、飼い主回答をもとにした調査です。そのため、家庭での遊び方と猫の暮らしの状態を広く見るには役立ちますが、原因と結果を一方向に決める研究ではありません。
主な発見
猫のQOLスコアは、猫のプレイフルネス(遊びに乗りやすい、遊びたがる傾向)と、遊びの種類の多さに関連していました。一方で、毎日の遊び時間の長さは、QOLスコアとは有意に関連していませんでした。ここから読めるのは、「とにかく長く遊べばよい」よりも、猫が反応しやすい遊びの幅や、飽きにくい刺激の作り方が大事かもしれないということです。
飼い主との関係スコアは、毎日の遊び時間の長さ、遊びの種類の多さ、猫と飼い主の両方が遊びを始めること、飼い主自身のプレイフルネスの高さと関連していました。遊びは運動だけではなく、猫と人のやりとりそのものでもあると読めます。
完全室内飼育の猫は、屋外アクセスのある猫よりQOLスコアと飼い主との関係スコアが高い傾向を示しました。ただし、これは「室内飼いの方が必ず幸せ」という意味ではありません。室内飼いでは猫の行動を観察しやすく、遊びや環境づくりの機会が多い可能性もあります。
遊びを控えたときに変化があったと答えた飼い主は468名でした。その中では、かまってほしがる行動の増加、鳴き声の増加、引きこもり、破壊的行動、攻撃的行動などが報告されています。この研究だけで「遊び不足が原因」とは言えませんが、遊びの変化が猫のストレスや退屈さを考える手がかりになる可能性はあります。
この研究で断定できないこと
この研究は横断調査なので、「遊びの種類を増やしたからQOLが上がった」「遊び時間が長いから関係がよくなった」といった因果関係は断定できません。もともと健康で安心して暮らしている猫ほど遊びやすい、飼い主との関係がよい家庭ほど遊びの機会が多い、という逆方向の可能性もあります。
また、QOLや関係スコアは飼い主回答に基づきます。飼い主が猫をよく観察している家庭ほど、遊びや変化を細かく捉えやすい可能性があります。完全室内飼育と屋外アクセスの比較も、地域差、飼育文化、家の広さ、環境エンリッチメントの内容などを切り分けた結論ではありません。
急に遊ばなくなる、鳴き声が増える、隠れる、攻撃的になるといった変化は、遊び不足だけでなく痛みや体調不良が関わることもあります。行動変化が続く場合は、遊びの見直しと並行して獣医師への相談も考える必要があります。
数値で見るポイント
- 参加者は55か国1,591名でした。
- 調査期間は2021年6月22日〜7月17日でした。
- 完全室内飼育の猫は1,066匹、屋外アクセスのある猫は524匹として解析されています。
- CORSと猫QOLスコアの相関係数はR = 0.375で、中程度の関連として報告されています。
- 遊びを控えたときに変化があったと答えた飼い主は468名でした。
- かまってほしがる行動の増加は22.2%、鳴き声の増加は15.6%、引きこもり行動の増加は10.5%でした。
- 破壊的行動の増加は10.0%、攻撃的行動の増加は9.0%でした。
暮らしへのヒント
- 遊びは「長さ」だけでなく、種類の幅も見る。
- ワンド型、転がすおもちゃ、追う遊び、待ち伏せする遊び、探す遊びなどをローテーションする。
- 猫が誘ってきたサインに気づく。足元に来る、目で追う、おもちゃの近くにいる、急に走るなども手がかりになる。
- 飼い主が一方的に遊ばせるだけでなく、猫が始めたタイミングにも応じる。
- 同じおもちゃを出しっぱなしにせず、短時間でも「出す、動かす、しまう」の変化を作る。
- 室内飼いでは、狩りの代わりになる刺激を家の中に用意する。
- 急な行動変化は遊び不足だけと決めつけず、続く場合は獣医師に相談する。
猫の遊び研究——しあわせと関係づくり
猫の遊びと福祉(しあわせ)の関係を調べた研究を、全5回で実践的に読み解きます。遊びの種類の多さとQOLの関係、遊び時間の意味、遊び不足で見られる変化、人との関係づくりまで学び、毎日の遊びを見直せます。