論文要約:猫の診察時に飼い主がいる場合といない場合
Hare et al. (2025). Applied Animal Behaviour Science, 292, 106792

論文の概要
猫の診察中、飼い主が室内にいる場合と、待合室で待って不在になる場合を比べた研究です。米国カリフォルニア州の猫と飼い主33組が、最低2週間を空けて両方の模擬診察を経験しました。
不在時には、馴化期と身体診察期の発声率が高くなりました。一方、飼い主の有無による差が検出された猫側の指標は発声率で、他の行動・生理指標には差を検出しませんでした。
同時に、飼い主が診察や処置への同席をどう感じるかも質問しています。飼い主の希望や推測と、猫から測った反応を分けて読む必要があります。
研究デザイン
対象は猫と主な飼い主33組です。猫は去勢雄21匹、避妊雌12匹、平均3.33歳、範囲1〜10歳でした。健康で、行動を変える薬を使わず、生活時間の半分以上を室内で過ごす猫が含まれました。
各猫は同じ診察室で2回の模擬診察を受けました。1回は飼い主同席、もう1回は飼い主が待合室にいる不在条件です。条件の順序は年齢と性別を考慮して無作為化され、2回の間隔は平均3.3週間でした。
1回は2分の馴化、2分の診察前観察、平均6分の身体診察、30秒の診察後観察で構成されました。腹部触診はせず、同じ担当者が最小限の保定で行いました。
測定したのは心拍数、呼吸数、瞳孔拡張率、発声、口なめ、逃げようとする動き、体を低くする姿勢、キャリーや診察台を離れるまでの時間です。発声はニャーだけを1分あたりの回数として解析しました。
主な発見
不在時には発声率が高かった
馴化期では、不在時の発声率が同席時の3.23倍でした(IRR 3.23、95%信頼区間1.47〜7.10)。身体診察期では3.18倍でした(IRR 3.18、95%信頼区間1.31〜7.70)。
IRRは回数の「率」の比です。猫のうち3.23倍多くが鳴いたという意味でも、ストレスの強さが3.23倍という意味でもありません。
他の飼い主条件の効果は検出されなかった
診察期の他の行動、心拍、呼吸、瞳孔拡張率には、飼い主の有無による差を検出しませんでした。飼い主が話しかけたり触れたりした時間・回数と猫の行動指標の間にも、有意で中程度以上の相関は検出されませんでした。
差を検出しなかったことは、完全に同じ、影響がないと証明したことではありません。33組の研究で、キャリー、移動、待合室、見知らぬ人など複数の刺激も重なっています。
飼い主は同席を快適と評価した
飼い主は、自分も猫も、同席時の方が快適だと回答しました。飼い主本人は同席時に「とても快適」が66.7%、不在時には「やや不快」が66.7%でした。
採血・採尿のような処置への同席希望も尋ねていますが、研究内で実際にそれらの処置を比較したわけではありません。これは飼い主の態度を示す質問票の結果です。
数字で見るポイント
| 数値 | 何を示すか | 読む時の注意 |
|---|---|---|
| 33組 | 両条件を完了して解析された猫と飼い主 | 単一地域の小標本 |
| 3.23倍 | 馴化期の不在時/同席時の発声率比 | 鳴いた猫の割合やストレス強度ではない |
| 3.18倍 | 診察期の不在時/同席時の発声率比 | 発声だけで気持ちを確定しない |
| 平均3.3週間 | 2回の模擬診察の間隔 | 範囲は2〜20週間 |
| 91% | 女性と回答した飼い主の割合 | 参加者の偏りがある |
この研究で断定できないこと
- 飼い主が同席すれば、どの猫も必ず落ち着く
- 鳴き声だけで恐怖、ストレス、痛みを判断できる
- 採血・採尿中も同じ効果になる
- 飼い主が撫でる、話しかけるほど猫の反応が改善する
- 飼い主と猫の絆は診察反応に関係しない
- 監督つき屋外アクセスが診察ストレスを減らす
注意点・限界
- 33組、単一地域、単一施設の模擬診察
- 飼い主の91%が女性で、猫との関係尺度が高い方へ偏った
- 診療への関心が高い飼い主が参加しやすく、扱いにくい猫が過少参加の可能性がある
- 映像記録のため、同席時の飼い主の関わりを一部制限した
- 複数の通院刺激が重なり、飼い主の有無だけを切り分けにくい
- 1匹は診察期を完了できず、5匹は喉鳴らしで心拍測定が欠測した
- 質問票は飼い主の認識で、猫の快適さを直接尋ねられない
暮らしへのヒント
前回の受診で、飼い主が近くにいた時と離れた時に、猫の声、姿勢、移動がどう変わったかを記録します。そのうえで、診察や処置に同席できる範囲を病院へ相談します。
同席できない場面があっても、研究に反した対応と決めることはできません。スタッフの安全、設備、処置、猫と飼い主の状態で判断は変わります。猫の履歴と飼い主の希望を共有し、病院と選択肢を作る材料として使います。
参考文献
Hare LV, Marsilio S, Halperin I, Stellato AC, Moody CM. (2025). Owner presence versus absence during cat veterinary examinations: cat responses and owner attitudes. Applied Animal Behaviour Science, 292, 106792. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2025.106792
猫の診察に飼い主は同席した方がいい?——33組の比較研究
33組の猫が飼い主同席・不在の模擬診察を経験した研究から、発声、行動・生理指標、飼い主の希望を分けて読みます。