猫の動きはセンサーで見分けられる?
家庭猫10匹の胸側へ加速度計を付け、動画で確認した12行動と波形を結びつけた研究を紹介します。機械学習が行動名を分類する仕組みと、センサーだけでは決められない範囲を整理します。

導入会話
マロン学長「ぼくが歩いたり寝転んだりしたら、小さなセンサーだけで見分けられるの?」
いち教授「動きの波形には違いが出るよ。ただ、最初から行動名を知っているわけではないんだ。」
マロン学長「じゃあ、誰が『これは歩く』と教えるの?」
いち教授「動画を見た人が正解を付け、その例から機械がパターンを学ぶんだよ。」
この回でわかること
- 三軸加速度計が記録するもの
- 動画ラベルと機械学習の関係
- 12行動へ分類した研究の範囲
胸元の小さな装置で動きを記録
2021年にScientific Reportsで発表された研究には、オーストラリアの家庭猫10匹が参加しました。猫は市販ハーネスを着け、胸骨に近い位置へ11gの三軸加速度計を装着しました。
三軸とは、前後、左右、上下の三方向です。装置は1秒間に50回、各方向の加速度を記録しました。横になって静止する時、歩く時、跳ぶ時では、身体の向きや揺れ方が違います。その差が波形として残ります。
猫は実験室の通路ではなく、普段の屋外環境を自由に動きました。多様な動きを記録できる反面、映像で確認しにくい場面もあります。
センサーが直接記録したのは行動名ではなく、胸元に伝わった三方向の動きです。
動画が「正解」を教えた
波形の山や谷だけから、どれが毛づくろいかを自動で決めることはできません。研究者は猫の行動を動画でも撮り、時刻を加速度データと合わせました。そして、映像で確認できる区間へ行動名を手作業で付けました。
分類したのは、横になる、座る、毛づくろい、見張る、食べる/飲む、歩く、速歩する、疾走する、跳ぶ、飛びかかる、前足でたたく、噛む/保持する、の12種類です。
50回/秒の記録は1秒ずつにまとめられ、平均、ばらつき、範囲、三軸どうしの関係など26の特徴へ変換されました。似た特徴を近くへ並べる自己組織化マップに学習させ、人がマップ上のまとまりへ行動名を対応させます。
機械学習の答えを作る前に、人が動画を見て作った正解ラベルが必要でした。
マロン学長「動画なしで、センサーが勝手に行動の意味を発見したわけじゃないんだね。」
分類できることと理解すること
モデルは、新しい1秒区間がどのまとまりに近いかを調べ、行動ラベルを返します。長い映像を全て見ずに、行動時間を集計できる可能性があります。
ただし、モデルが「飛びかかる楽しさ」や「食べたい気持ち」を理解したわけではありません。同じ胸の揺れ方へ同じラベルを割り当てています。似た動きが別の状況で起きれば、波形だけでは意味を区別できないこともあります。
また、この研究で使ったのは研究用の装置と解析手順です。家庭用活動量計やスマート首輪が同じ12行動を同じ精度で分類できるとは限りません。装着位置、記録頻度、学習データが違えば性能も変わります。
行動の分類は動きのパターン分けであり、猫の感情や健康状態を読むこととは別の課題です。
家庭でも表示名を猫の内面そのものと受け取らず、何をどこで測る機器かを確かめます。
今日からできること
- センサーの表示名と、装置が実際に測る動きを分けて考える
- 数値だけでなく装着位置やずれも確認する
まとめ会話
マロン学長「センサーは胸元の動きを記録し、動画で付けた正解から12行動を学んだんだね。」
いち教授「そうだよ。行動名は波形の中に書かれているわけではないんだ。」
マロン学長「分類できても、ぼくの気持ちや体調まで読めるとは限らない。」
いち教授「その境界を保とう。次は10匹の記録と学習手順を詳しく見るよ。」
次回予告
第2回は、対象、装着条件、1秒区間、26特徴量、学習データ量と原著内の時間不一致まで照合します。
参考文献
- Galea N, et al. Quantifying finer-scale behaviours using self-organising maps (SOMs) to link accelerometery signatures with behavioural patterns in free-roaming terrestrial animals. Scientific Reports. 2021;11:13566. https://doi.org/10.1038/s41598-021-92896-4