反り背を長く見たのは「怖い」から?
猫24匹が反り背の写真を長く見た結果を、注視回数、接触、距離、恐れ・覚醒に関連する行動クラスターと並べます。「長く見る=怖い」と断定できない理由を丁寧に解説します。

導入会話
マロン学長「反り背を長く見て、毛を逆立てたり固まったりもしたなら、やっぱり怖かったんじゃない?」 いち教授「複数の結果が同じ方向を向くかは大切だね。ただし、行動の名前と内面は分けよう。」 マロン学長「『恐れ・覚醒クラスター』って感情の測定じゃないの?」 いち教授「行動のまとまりへ付けた解釈名なんだ。中身から確かめよう。」
この回でわかること
- 反り背への注視と接触
- 行動クラスターの作り方
- 感情を断定できない理由
見る時間と回数は同じ方向だった
反り背の写真を見る平均時間は22.61秒で、接近11.53秒、転がる姿勢8.68秒、うずくまり7.33秒より長くなりました。
見る回数でも、同じ不快側の反り背は平均4.00回、うずくまりは2.25回でした。活動的な反り背は、受動的なうずくまりより注意を引いたと読めます。
反り背への注意が増えたことは、見る時間と回数という2つの測定で支えられました。
一方、写真へ近づくまでの時間、50cm以内・150cm以内で過ごした時間、その範囲へ入った回数には差がありませんでした。注視が増えても、接近や回避の選択まで一緒に変わったわけではありません。
マロン学長「目では追ったけど、距離の取り方まで同じ答えは出なかったんだね。」
活動的な写真へは接触が長かった
写真を嗅ぐ、前足で触る、こするといった接触が起きたかどうかには、感情価や活動性による差がありませんでした。
接触が起きた試行だけを見ると、活動的な反り背としっぽを立てた接近は、受動的な転がる姿勢より接触時間が長くなりました。しかし、快側と不快側を直接比べた差は確認されませんでした。
接触時間は「好き」「嫌い」をそのまま表す物差しではありません。気になるものを近くで確かめる時にも、親和的なものへ近づく時にも接触は起こります。
行動をデータからまとめた
研究者は、同時に出やすい行動をクラスター分析でまとめました。写真条件では4つに分かれ、先行研究を参考に「軽い関心」「恐れ・覚醒」「関心・覚醒」「欲求不満」と解釈しました。
「恐れ・覚醒」クラスターには、毛を逆立てる、声を出す、固まる、まばたき、横になる、しっぽを打つ、皮膚をぴくつかせる、鳴く、うずくまるなどが含まれました。
このクラスターの行動は、活動的な不快刺激で活動的な快刺激より多く現れました。平均は反り背2.75行動、しっぽを立てた接近1.58行動でした。
マロン学長「一つの動きじゃなく、同時に出やすい行動の組み合わせを比べたんだ。」
名前は診断ではない
クラスターは、猫の自己申告や生理測定から感情を確定したものではありません。データ上まとまった行動へ、研究者が先行知見を参考に意味の近い名前を付けています。
しかもこの分析は事前登録外です。細かな顔動作の多くは評価者間一致が低く、分析に残りませんでした。一部の全身行動では一致度0.40超を採用しており、著者らも分野によっては0.60未満を不十分とすることを説明しています。
「恐れに関連する行動が増えた」と「猫が恐怖を感じたと証明した」は同じではありません。
反り背は対立場面で目立つ姿勢です。危険性を確かめるため、新奇で目立つ形だから、動きが想像されやすいからなど、注視が増える理由は一つに決まりません。
今日からできること
- 行動ラベルを見る時は、含まれる動きの中身まで確認する
- 注視、接近、距離、その後の行動を別々に記録する
まとめ会話
マロン学長「反り背は目を引き、関連する行動も増えたけど、感情を直接読んだわけではないんだね。」 いち教授「そうだよ。複数の行動を重ねても、測っていない内面は慎重に表すんだ。」 マロン学長「声の方は全部差がなかったんだよね?」 いち教授「次は、差が出ないことから何を言えて、何を言えないか考えよう。」
次回予告
第4回は、4種類の鳴き声で差が出なかった結果と、測定の限界を読み、接近の結果も比べます。
参考文献
Spoelstra KE, et al. Purr-ceiving feelings: domestic cats respond to intraspecific cues of emotion. PeerJ. 2026;14:e21292. https://doi.org/10.7717/peerj.21292