24匹・192試行をどう比べた?——論文を深く読む
猫24匹が写真4試行と音声4試行を経験した自宅実験を読みます。刺激分類、動画測定、評価者間一致、混合モデル、事前登録外の探索的分析まで整理し、注意点も確認します。

導入会話
マロン学長「反り背を長く見た数字だけじゃなく、どう測ったかも確かめたいな。」 いち教授「良い視点だよ。結果の強さは、実験の組み方と分析の予定にも左右されるんだ。」 マロン学長「24匹なら、24回見せたの?」 いち教授「一匹8試行で合計192試行だよ。繰り返しをどう扱ったか順に見よう。」
この回でわかること
- 24匹・192試行の手順
- 動画から測った項目
- 事前登録と探索的分析の違い
自宅で2日以上に分けた
対象は13世帯の健康な猫24匹で、雄12匹、雌12匹、平均6.21歳でした。全頭が1歳以上で、不妊・去勢済みです。20匹は多頭世帯、4匹は単独世帯でした。
実験は猫が暮らす家の慣れた部屋で行われました。初回は、実験者へ少なくとも20分慣れる時間を取りました。猫はいつでも実験場所を離れられました。
各猫は、写真4試行と鳴き声4試行を少なくとも2日に分けて経験しました。一試行は2分で、次の試行まで少なくとも2分空けました。順序は猫ごとに偏らないよう調整されています。
同じ猫から8つの記録が得られるため、192試行を192匹の独立した反応としては扱えません。
研究者は、同じ猫の繰り返しと、同じ世帯で暮らす猫のまとまりを考慮する混合モデルを使いました。
マロン学長「一匹の反応を何匹分にも数えないための工夫なんだね。」
見る・近づく・触るを別々に記録
試行は3方向から撮影されました。第一著者は全192動画を見て、次の行動を記録しました。
- 写真やスピーカーの方向を見る時間と回数
- 嗅ぐ、前足で触る、こするなどの接触時間
- 50〜150cm、50cm以内にいる時間と入った回数
- 50cm以内へ近づくまでの時間
- 3台すべてのカメラから見えない時間
- そのほかの全身行動と顔の動き
仮説を知らない第二評価者が20%、38動画を別に記録しました。時間の測定はICC 0.83〜1.00、回数は0.73〜0.93で、おおむね良い一致でした。
一方、細かな顔の動きは多くで一致が低く、確実に使えたのは瞳孔拡張、鼻舐め、まばたきの3項目でした。
測ろうとした項目と、十分な一致で実際に分析できた項目は同じではありません。
覚醒度から活動性へ変わった
研究者はまず、6人の動物行動の専門家へ、写真と声の快・不快と覚醒度を7段階で評価してもらいました。快側と不快側は想定どおり分かれましたが、覚醒度の評価は専門家間で一致しませんでした。
そこで、動き、探索、優位・攻撃に関連する接近、反り背、トリル、うなり声を「活動的」とし、休息、回避、服従・防御に関連する転がる姿勢、うずくまり、喉鳴らし、ヒス音を「受動的」としました。
著者らは、この活動性が覚醒度と完全に一致しないと認めています。喉鳴らしが痛みのある場面でも出るように、一つの行動は複数の状況で現れます。
予定した問いと後から探った問い
事前登録では、不快側の刺激を長く見て、快側の刺激へ近づき、長く触れると予測しました。研究を始める前に問いと分析を残すのは、結果を見て都合の良い説明だけを選ぶ危険を減らすためです。
活動性との組み合わせと、同時に出やすい行動をまとめるクラスター分析は、事前登録には含まれていませんでした。
中心的な差の多くは、後から加えた探索的分析で見つかりました。探索は新しい仮説を作る大切な工程ですが、確認済みの結論と同じ強さでは扱わず、別の猫と刺激で再現する必要があります。
📄 論文を深く読む
この回では、猫・世帯のまとまりを扱う混合モデル、行動の有無と長さを分けるハードルモデル、事前登録外のクラスター分析を確認しました。数字と統計の詳細は論文要約ページをご覧ください。
今日からできること
- 研究記事では、対象数だけでなく試行数と繰り返しを見る
- 「事前に予定した分析か」を限界欄で確認する
まとめ会話
マロン学長「24匹を何度も測ったから、猫と世帯のまとまりを考えたんだね。」 いち教授「その通り。測定の一致も確認している一方、活動性は後から加えた探索なんだ。」 マロン学長「同じ有意差でも、できた道筋まで見たいな。」 いち教授「次は反り背の注視と行動クラスターを並べ、どこまで同じ方向を示したか確かめよう。」
次回予告
第3回は、反り背を長く見た結果と、恐れ・覚醒に関連する行動を分け、距離の結果も確認します。
参考文献
Spoelstra KE, et al. Purr-ceiving feelings: domestic cats respond to intraspecific cues of emotion. PeerJ. 2026;14:e21292. https://doi.org/10.7717/peerj.21292