猫は、声だけと視覚的な合図にどう反応する?
猫カフェの猫12頭を対象に、見知らぬ人からの声だけ・視覚的な合図・両方・働きかけなしを比べた実験の背景を紹介します。

導入会話
マロン学長「ぼく、呼ばれたらすぐ行きたくなるタイプだけど、猫によって違うのかな。」
いち教授「実は、猫は指差しの方向を読んだり、人の視線を追ったりする力を持っていることがわかっているんだ。犬ほど研究は多くないけれど、猫にも人に合わせた社会的な力があるんだよ。」
この回でわかること
- 比べたのは単純な「声対視線」ではない
- 研究が見たのは、見知らぬ人への猫の反応
猫は、思ったより人の合図を読んでいる
これまでの研究では、猫が隠された食べ物を探すときに人の指差しを読めること、人が怖がっている物を見るときに飼い主の顔を確認すること、人の感情表現や注意の向きを見分けられることなどがわかっています。声については、飼い主の声を他人の声と区別できること、自分に向けられた話し方と大人向けの話し方を聞き分けられることも報告されています。
著者らがこの実験を組んだ時の予想は、今回の結果とは逆でした。猫は人に向けて鳴き声を発達させてきた動物なので、人からの働きかけにも声のほうに敏感だろう、と考えていたのです。猫同士のやりとりでは匂いと視覚が主で、声はあまり使われません。人との暮らしの中で鳴き声を使うようになったこと自体が、猫が人に合わせて身につけた力だと考えられています。その猫が、人から受け取る側ではどの合図に反応するのか。それを確かめるのが研究の出発点でした。
「声」と「視覚的な合図」を分けて比べる
マロン学長「声も視線も読めるなら、両方大事ってことだよね。」
いち教授「そうなんだけど、実際に働きかけの種類を分けて比べた研究は少なかったんだ。今回紹介するde Mouzon & Leboucher(2023)の研究は、そこを調べたパイロット研究(予備的な小規模研究)だよ。」
この研究では、フランスの2つの猫カフェで暮らす猫を対象に、見知らぬ人が「声だけ」「視覚的な合図だけ」「両方」「何もしない」という4つの働きかけをしたときに、猫がどれくらい速く近づくか、どんな行動を見せるかを比べました。視覚条件は、手を差し出す、猫と床を交互に見る、ゆっくり瞬きをする、という複数の合図です。
猫同士のコミュニケーションでは、しっぽを立てて近づく行動が友好的なサインとして知られています。この研究のポイントは、そうした猫同士のサインが、人からの働きかけに対してどう変わるかを見ている点です。
「近づくまでの時間」を主な指標にした理由も押さえておきたいところです。動物が何かに速く近づくほど、その対象や働きかけが動物にとって魅力的だと考える見方が、行動研究では使われてきました。猫が人にどれくらい速く寄ってくるかを測ることで、その働きかけがどれくらい「行きたくなるもの」だったかを推し量る、という設計です。ただし、速さは魅力の一つの手がかりであって、猫の気持ちそのものではありません。近づいた後にどんな行動を見せたかも、11の項目に分けて記録されています。
今日からできること
- 「猫は声と視線のどちらを好む」と単純化せず、合図の組み合わせを見る
- 研究対象が見知らぬ人に慣れた猫カフェの猫だと覚えておく
まとめ会話
マロン学長「声と視線の二択じゃなくて、手や瞬きも含むんだね。」
いち教授「次回は、この実験がどう設計されたのか、詳しく見ていこう。」
マロン学長「猫カフェでの実験なんだね。」
いち教授「うん。見知らぬ人に慣れた猫たちが対象だよ。その条件も含めて、次回整理しよう。」
次回予告
第2回は、この実験がどのように設計され、猫の反応がどう記録されたのかを詳しく見ていきます。