猫の声に「その子らしさ」はどれくらい入っている?
猫の声に個体の情報がどれくらい含まれるかを、録音と音響解析で調べた方法を紹介する第1回です。

導入会話
マロン学長「うちの猫の声って、ぼくにはちゃんと『うちの子の声』に聞こえるんだ。」
いち教授「そう感じる人は多いね。じゃあ、その感じは声のどこから来ているんだろう。」
マロン学長「うーん、なんとなく……としか言えないなあ。」
いち教授「今日はそこを、音を測って調べた研究を見よう。」
この回でわかること
- 動物の声には「その個体らしさ」が入っていることがある
- この研究はニャーとゴロゴロという2つの声を比べた
- どうやって集め、どうやって比べたのか
声の個性は、多くの動物で調べられてきた
動物の声には、性別や年齢のほかに、その個体だけの特徴が含まれることがあります。仲間を見分ける手がかりになるため、多くの動物で調べられてきました。
ただ、同じ動物でも声の種類はいくつもあります。声の種類によって、そこに入る個体の情報の量が違うかもしれません。実際、鳥やサルの研究では、落ち着いた場面の声の方が個体らしさが強く、危険を知らせる声では弱まる、という報告があります。
猫でこれを比べた研究は、これまでありませんでした。
マロン学長「猫の声って、何種類くらいあるの?」
いち教授「古い研究では21種類が挙げられているよ。今回はそのうち、性質が大きく違う2つを取り上げているんだ。」
ニャーとゴロゴロ
ひとつはニャーです。口を開けて出す、比較的高い声で、場面によって長さも高さも変わります。猫同士ではあまり使われず、人に向けて使われることが多いと考えられています。
もうひとつはゴロゴロです。口を閉じたまま、息を吐くときにも吸うときにも出る、低くて小さな音です。体の震えを伴い、長く続くこともあります。
研究者の最初の予想は、人とやりとりするために使われるニャーの方が、個体らしさを強く伝えるだろう、というものでした。
集め方
録音は2020年から2021年にかけて、ベルリンの12の家庭と2つのシェルターで行われました。対象は27匹の猫です。
集音マイクを猫の口から2〜20cmまで近づけ、1匹あたり1〜5日、1日1時間ずつ録音しました。ニャーは食事を待つ場面や人の関心を求める場面で、ゴロゴロは撫でている場面で録っています。
集まった声から音の特徴を数値として取り出し、統計モデルに「この声はどの猫のものか」を当てさせます。当たる割合が高いほど、その声に個体の情報が多く入っていることになります。
マロン学長「機械に聞き分けさせるんだ。」
いち教授「そう。人が耳で聞き分けられるかを調べた研究ではない、という点は覚えておこう。」
今日からできること
- 猫の声を「鳴き声」とひとまとめにせず、種類ごとに分けて聞いてみる
- ニャーとゴロゴロで、長さや高さがどれくらい違うかを意識する
まとめ会話
マロン学長「同じ猫の声でも、性質が全然違うんだね。」
いち教授「うん。だから比べる価値があるんだ。次回は、その結果を見よう。」
マロン学長「予想はニャーの方が強い、だったんだよね?」
いち教授「そう。それが外れたところから、話が面白くなるよ。」
参考文献
- Russo D, Schild AB, Knörnschild M. Meows encode less individual information than purrs and show greater variability in domestic than in wild cats. Scientific Reports. 2025;15:43490. https://doi.org/10.1038/s41598-025-31536-7