名前4回、顔7秒——期待違反課題を深く読む
猫に同居猫の名前を4回聞かせ、顔写真を7秒見せた研究を詳しく読みます。48匹の内訳、4試行、注視時間、除外、期待違反指数、原著内の記述不一致を解説します。

導入会話
マロン学長「別の顔を長く見たなら、すぐに名前を覚えたと分かるの?」 いち教授「結論の強さは、誰を何回調べ、どの試行を分析したかで変わります。」 マロン学長「反応しなかった時はどう数えるのかな?」 いち教授「そこも重要です。画面を見なかった試行は除外されているので、順に確認しましょう。」
この回でわかること
- 実験1の対象と4試行の構成
- 注視時間と期待違反指数
- 除外試行と原著内不一致の意味
48匹を2つの環境で調べた
実験1は48匹をテストしました。猫カフェ29匹と家庭猫19匹です。家庭猫は対象猫以外に少なくとも2匹と暮らし、顔写真に使う猫とは6か月以上同居していました。
猫カフェでは平均14.2匹、家庭では平均6.37匹の猫と暮らしていました。年齢も猫カフェ平均3.59歳、家庭平均8.16歳で同じではありません。
家庭と猫カフェは、同居頭数だけを変えた実験条件ではありません。
1匹につき計4試行
名前は2.5秒間隔で4回流れ、その直後に顔写真が7秒間表示されました。各猫は一致2試行、不一致2試行の計4試行を受け、試行間は3分以上でした。
顔表示中に、猫が画面へ顔を向ける、または画面のにおいを嗅ぐ時間を30フレーム毎秒で数えました。条件を知らない評価者が採点し、別の評価者との相関は r=0.88でした。
注視時間は「相手が誰か言い当てた回数」ではありません。食い違う刺激へ注意が長く続いたかを測る連続量です。
画面を見なかった試行は除外
顔表示中に画面へ注意を向けなかった試行は解析から除かれました。猫カフェでは一致34・不一致33、家庭では一致26・不一致27試行を分析し、合計69試行が除外されました。
さらに不一致平均から一致平均を引く期待違反指数は、両条件の組がある家庭猫14匹、猫カフェ猫16匹で計算されました。
テスト48匹全員が4試行を完了し、全データが同じ重みで使われたわけではありません。
結果の数値
条件と生活環境の交互作用は p=0.009でした。家庭猫では不一致時の注視が一致時より長く(p=0.045)、猫カフェでは有意差がありませんでした(p=0.110)。期待違反指数も家庭群の方が高く(p=0.017)、家庭群では0より大きくなりました(p=0.025)。
家庭猫の結果は有意ですが、各猫の有効試行は少なく、除外もあります。効果がすべての家庭猫に同じ形で現れたとは言えません。
原著内の1匹分の不一致
本文は対象を48匹とし、群別内訳の29+19も48です。しかし全体の性別は「雄28、雌19」と書かれ、合計47匹です。群別性別を足すと雄28、雌20になります。
2023年の訂正は図1で欠けていた矢印の追加だけで、この性別内訳は訂正されていません。本講座はどちらかを推測で正しいとせず、記述不一致として残します。
📄 論文を深く読む
期待違反課題は、正解行動を教える課題ではありません。刺激の一致・不一致で注視時間が変わるかを用いて、事前の予測を推測します。対象数だけでなく、有効試行、除外、群差、測定指標まで読むことが重要です。
今日からできること
- 対象数と解析に使われた試行数を分けて読む
- 原著の数字が合わない時は、推測で直さず不一致として記録する
まとめ会話
マロン学長「48匹をテストしても、画面を見なかった試行は除かれているんだね。」 いち教授「ええ。期待違反指数まで計算できたのは家庭14匹、猫カフェ16匹です。」 マロン学長「性別内訳の1匹差も、そのまま注意事項にする。」 いち教授「研究を丁寧に読むとは、分からない箇所を勝手に埋めないことでもあります。」
次回予告
第3回は、家庭猫と猫カフェの結果が違った理由を、分かったことと仮説に分けます。
参考文献
Takagi S, et al. Cats learn the names of their friend cats in their daily lives. Scientific Reports. 2022;12:6155. https://doi.org/10.1038/s41598-022-10261-5