見えなくなっても、なくなったわけではない
見えなくなった物も存在し続けると扱う「物体の永続性」を、猫とおもちゃの場面から学ぶ第1回です。

導入会話
マロン学長「おもちゃがソファの下へ入ったら、じっと見張る猫っているよね。見えなくても、そこにあるって分かってるのかな?」
いち教授「その疑問を調べるのが、物体の永続性という研究なんだ。まず言葉の意味から整理しよう。」
マロン学長「猫の記憶力テストとは違うの?」
いち教授「似て見えるけれど、もっと限られた問いなんだよ。」
この回でわかること
- 物体の永続性は、見えない物も存在すると扱う認知のこと
- 見える移動と、見えない間の移動では課題の難しさが違う
- 1回探さないだけで、理解の有無は決められない
「見えない」と「ない」は同じではない
ボールが箱の陰へ転がると、目からは消えます。それでも箱の向こうへ回って探すなら、猫は少なくとも行動の上で、ボールが存在し続けるように扱っています。この考え方を物体の永続性と呼びます。
研究では、物がどう隠れたかによって段階を分けます。目の前で1つの場所へ隠すのが「単一の見える移動」です。複数の場所へ順番に移す様子を見せ、それを追えるかを見る課題もあります。さらに、目隠しの後で別の場所へ移った物を考える課題は「見えない移動」と呼ばれます。
マロン学長「箱へ入るところを見た場合と、見えない間に場所が変わる場合では、考えることが違うんだね。」
いち教授「そうだよ。研究でいう段階は、猫全体の賢さの順位ではないんだ。」
過去の研究で分かっていたこと
Formanら(2025)が新しい実験を始めた時点で、猫は見えるまま隠れた物を探し、続けて場所が変わる課題にも対応できるという報告がありました。人の乳幼児の発達段階になぞらえると、第4・第5段階にあたります。
一方、見えない間に別の場所へ移る第6段階は、猫では結果がそろっていません。隠れた食べ物を探せた研究がある一方、最後に触れられた場所を選ぶといった、もっと単純な手がかりでも説明できるという批判があります。成功したように見えても、頭の中で見えない移動を思い描いたとは限りません。
今回の研究が扱ったのは、その難しい境界です。猫に正解の箱を選ばせるだけでなく、起きるはずのない場所からおもちゃが現れたとき、見る時間や箱への動きが変わるかを調べました。
探さない理由は1つではない
認知実験で難しいのは、猫が行動しなかったときです。場所が分からないのかもしれません。おもちゃへの関心が下がったのかもしれません。知らない人や撮影機材を気にしていた可能性もあります。
研究者が観察できるのは、猫の頭の中そのものではなく、近づく、見る、触るといった行動です。行動が出なかったことと、理解がなかったことは同じではありません。この区別が、全5回を読む土台になります。
今日からできること
- 猫が隠れたおもちゃを探さないとき、「覚えていない」と1回で決めない
- 猫が見ていたか、まだ遊びたそうか、周囲を気にしていないかを分けて見る
まとめ会話
マロン学長「物体の永続性は、猫の知能を丸ごと測る点数じゃないんだね。」
いち教授「その通り。見えない物をどう扱うかという、限られた問いなんだ。」
マロン学長「探さなかった理由も、理解だけでは決められないんだ。」
いち教授「次は、18匹にどんな課題をしてもらったのか見ていこう。」
次回予告
2つの箱、お気に入りのおもちゃ、飼い主と研究者。家庭内で行った6試行の仕組みを追います。