箱は2つ、試した猫は18匹——家で行った実験
猫18匹が家庭で参加した物体の永続性実験を、見える移動・一致・期待違反という3種類の試行から紹介する第2回です。

導入会話
いち教授「マロン、猫の認知実験をするなら、どこで試すのがよいと思う?」
マロン学長「慣れた家なら安心できそう。でも、家具も人の動きも家ごとに違うよね。」
いち教授「そこが今回の工夫であり、限界でもあるんだ。」
マロン学長「家でできる形にした実験を見てみたい!」
この回でわかること
- 最終的に参加したのは14家庭の18匹
- 2つの箱を使い、見える移動・一致・期待違反を各猫に行った
- 飼い主と研究者の両方が箱を操作した
参加できたのは18匹
研究は英国ブライトンで行われました。最初に集まったのは18家庭25匹です。そこから、実験場所を離れた猫、当日いなかった猫、おもちゃに参加する動機が保てなかった猫、研究者を怖がって家具の陰へ隠れた猫が外れ、14家庭18匹が最終標本になりました。
10匹がメス、8匹がオス。13匹が雑種で、純血種はラグドール3匹とバーマン2匹です。年齢は0.5〜11歳でした。10匹は2匹暮らし、8匹は1匹暮らしでした。
除外された7匹も大切な情報です。認知課題へ参加できる猫だけを見た結果であり、怖がりな猫や遊びへの関心が低い猫まで代表しているとは限りません。
猫が選んだおもちゃと、2つの箱
最初に、新品のボール、ネズミ型、サボテン型、ヘアゴムなどを見せ、猫が最も関心を示した物をその猫の試行に使いました。小物とヘアゴムは誤食を防ぐため、研究中ずっと監督されていました。家庭で手順をまねるなら、ここを切り取ってはいけません。飲み込める物は使わないのが安全です。
装置は16cm角の段ボール箱2つで、間隔は約2cm。箱の内側には、おもちゃを入れる音を減らすための素材が貼られました。視界を遮るのは大きな壁ではなく、A4サイズのフォルダーです。
研究前の試行では、透明な壁を回れず前で止まる猫や、大きな目隠しを怖がる猫がいました。猫を抱いて向きを変える方法も負担になりました。そこで研究者は、猫を動かすのではなく、小さな目隠しで箱だけを操作する方法へ変えました。
6試行は3種類
各猫は6試行、全体で108試行に参加しました。
- 見える移動(SVD): おもちゃを片方の箱へ入れるところを見せ、60秒間に探すかを見る。飼い主と研究者が1回ずつ。
- 一致条件: フォルダーで視界を遮り、箱を入れ替えたふりをする。おもちゃは隠したのと同じ箱から出し、30秒間を見る。
- 期待違反条件: 視界を遮った間に箱を実際に入れ替える。猫から見ると、おもちゃが予想外の箱から現れる。こちらも飼い主と研究者が1回ずつ。
一致条件と期待違反条件では、猫に正解の箱を選ばせません。おもちゃが現れた後の30秒間に、見る、近づく、箱へ触る、おもちゃへ触るといった反応を動画で記録します。
マロン学長「知らない場所へ連れていかず、家で猫が自由に動けるようにしたんだね。」
いち教授「そうだよ。ただ、自由度を上げるほど、開始距離や人の表情を完全にはそろえにくくなるんだ。」
論文を深く読む
行動の記録は、見つけたか・どの箱を先に見たかを扱うロジスティック回帰、おもちゃや箱へ向かう回数を扱うポアソン回帰、注視時間や反応までの時間を扱う線形混合モデルを使い分けています。9つの説明変数を含む完全モデルから、AICを比較しながら変数を減らす後退除去法で最終モデルを選び、効果量は一般化η²で示しました。詳しい数値は論文要約ページで確認できます。
今日からできること
- 論文の結果を見る前に、参加できなかった猫と課題の手順も確認する
- 家で遊ぶときは、飲み込める小物を研究の再現に使わない
まとめ会話
マロン学長「家で試す工夫には、猫の安心を守る良さと、条件をそろえにくい難しさの両方があるんだね。」
いち教授「いい整理だよ。実験の結果は、方法と切り離して読めないんだ。」
マロン学長「次はいよいよ、見える場所に隠した課題の結果だね。」
いち教授「見つけなかった猫が何をしていたかまで見よう。」
次回予告
目の前で箱へ入れたのに、10匹が見つけませんでした。その数字の中身を慎重に分けます。