10匹が見つけなかった——「覚えていない」と言える?
目の前で箱へ隠したおもちゃを18匹中10匹が見つけなかった結果を、「間違えた」と「探さなかった」に分けて読む第3回です。

導入会話
マロン学長「目の前で箱へ入れたなら、すぐ見つけられそうなのに。」
いち教授「研究でも、過去の結果から見つけると予想していたんだ。でも18匹中10匹は見つけなかった。」
マロン学長「それなら、隠れた物を覚えていなかったの?」
いち教授「数字をもう一段分けると、その結論を急げないことが分かるよ。」
この回でわかること
- 18匹中10匹が見える移動課題でおもちゃを見つけなかった
- その10匹のうち8匹は、箱へ向かう探索を試みなかった
- 「間違えた」と「参加しなかった」は分けて読む必要がある
36試行のうち、見つけたのは16試行
見える移動課題は、18匹が飼い主と研究者の条件で1回ずつ行い、合計36試行でした。おもちゃを見つけたのは16試行です。猫単位で見ると、10匹(56%)がこの課題で隠れたおもちゃを見つけませんでした。
この数字だけを見ると、見える場所へ隠れた物も追えなかったように感じます。けれど研究者は、「見つけなかった」を2種類に分けて記録していました。
- 箱へ向かい、空の箱を見るなど、探したけれど見つけなかった
- 箱へ向かう動きを見せず、探索を試みなかった
10匹のうち8匹は後者でした。見つけなかった猫の多くは、間違った箱を選んだのではなく、探し始めていません。
おもちゃが報酬にならなかった可能性
研究者は、猫を動かす報酬としておもちゃが十分に魅力的ではなかった可能性を挙げています。試行前に好みを確かめ、約10秒遊ばせていても、その関心が箱を回って探すほど続くとは限りません。
過去には、柔らかいおもちゃより食べ物を使った課題で猫が粘り強く参加したという報告もあります。ただし食べ物を使えば、においで場所が分かる問題が加わります。動機を強くすると別の手がかりが増える。認知実験は、その折り合いをつける必要があります。
マロン学長「分かっていても、今は取りに行きたくないことがあるかもしれないんだ。」
いち教授「そうなんだ。反対に、探しに行ったから理解しているとも、それだけでは決められない。音や人の視線を手がかりにした可能性もあるからね。」
飼い主なら参加しやすい、とは出なかった
研究者は、知らない人が箱を操作すると猫が参加しにくくなると予想していました。ところが見える移動課題では、飼い主か研究者かという違いは、おもちゃを見つけるか、最初にどちらの箱を見るかをはっきり説明しませんでした。
これは「親しさは関係ない」と証明した結果でもありません。18匹という小さな標本で、どちらの箱を見るかの推定幅も広く、差を見つけにくかった可能性があります。分からなかった結果を、影響がないという結論へ広げないことが大切です。
家庭の1場面へ持ち帰るなら
ソファの下へ入ったおもちゃを猫が追わないとき、記憶力の問題だと考える必要はありません。もう遊びを終えたい、別の音が気になる、取りにくい場所へ入りたくないなど、行動しない理由は複数あります。
研究から直接分かるのは、家庭の18匹を同じ課題へ誘っても、探索を始めない猫が多かったことです。猫の能力を測る物差しではなく、行動が出るまでの条件も観察の一部だと教える結果です。
今日からできること
- 探さなかった場面を「間違えた」と数えず、猫が課題へ参加したかから見る
- 猫が離れたら、おもちゃを追わせて能力を確かめようとしない
まとめ会話
マロン学長「10匹が見つけなかったけど、多くは違う箱を選んだのではなく、探し始めなかったんだね。」
いち教授「そこが大切だよ。観察された行動を、頭の中の能力へ直結させないことだね。」
マロン学長「次の予想外の箱では、もっとはっきり反応したのかな?」
いち教授「それが、研究者の予測とは逆だったんだ。」
次回予告
おもちゃが予想外の箱から現れたのに、猫の反応は一致条件より弱く出ました。その意味を考えます。