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ネコフリークス大学Neko Freaks University
講座029第1回 / 全5回

「わかっているのに、できない」のはなぜ?

猫の福祉と野生動物保護、両方を大切に思う飼い主が、なぜ夜間の室内飼育を徹底できないのかという疑問から、この研究の背景を紹介します。

いち教授
いち教授
講座029

導入会話

マロン学長「夜、猫を外に出さない方がいいって、よく聞くよね。ぼくもそう思ってるんだけど……正直、毎晩ちゃんとできてるかというと自信がないな。」

いち教授「実は、それはマロン学長だけじゃないんだ。今日紹介するKaine, Wright & Turk(2024)の研究では、多くの飼い主が『夜間の室内飼育は猫のためになる』とわかっていながら、実際に行っているのは一部にとどまることが指摘されているよ。」

この回でわかること

  • 「わかっている」と「できている」の間にある隔たり
  • それを意志の弱さではなく心の仕組みとして説明する研究の視点
  • 猫の福祉と野生動物保護、2つの「大切」がぶつかる構図

「夜は室内に」、わかってはいるけれど

猫が野生動物に一定の影響を与えていること自体は、これまで多くの研究で報告されてきました。飼い主の多くも、そのことをまったく知らないわけではありません。それでも、「わかっている」と「実行できている」の間には、しばしば大きな隔たりがあります。

論文の序論は、その隔たりの大きさを示す先行研究も引いています。GPSと猫に装着したカメラで追った研究では、猫の62%が捕食行動をしていたのに、家へ獲物を持ち帰った猫は1匹もいませんでした。飼い主が「うちの猫は狩りをしない」と感じていても、見えていないだけの可能性があります。持ち帰った獲物の数で猫の影響を測ってきた従来の方法は、実際より小さく見積もっているかもしれない、というのが著者らの前提です。

マロン学長「知ってるのに、なんでできないんだろう。ぼくの意志が弱いだけ?」

いち教授「そこがこの研究の面白いところなんだ。著者たちは、それを『意志の弱さ』ではなく、心の中の仕組みとして説明しようとしているんだよ。」

2つの「大切」がぶつかり合う

この研究の中心にあるのは、「猫の福祉を守りたい」という気持ちと、「野生動物を守りたい」という気持ちが、飼い主の中で同時に存在しているという視点です。

多くの飼い主は、猫を室内に閉じ込めることを「不自然で、猫にとって辛いことなのでは」と感じる一方で、「外に出せば野生動物に影響を与えるかもしれない」とも感じています。どちらも大切にしたい気持ちなのに、行動としては両立しにくい——これが、この研究が注目した葛藤です。

研究の舞台はニュージーランドです。固有の鳥類が多く、猫を含む外来の捕食者から野生動物を守ることが国の課題になっている国で、夜間の室内飼育は野生動物保護の手段として広く呼びかけられています。日本とは事情が違いますが、「猫のため」と「外の生き物のため」の板挟みという構図は、地域を越えて共通しています。

マロン学長「猫のためを思うと外に出したくなるし、鳥さんたちのためを思うと室内に入れたくなるし……たしかに、板挟みだね。」

いち教授「うん。今回の研究は、ニュージーランドで2005人という大規模な調査を行って、この板挟みの仕組みを心理学の理論で読み解こうとしているんだ。」

「関心の強さ」という物差し

著者らが使った鍵になる考え方が「インボルブメント」です。あるテーマにどれくらい強く関わっているか、気にかけているかを表す心理学の言葉で、消費者行動の研究で長く使われてきました。関心が強いほど、人はそのテーマについて情報を集め、じっくり考え、行動に移す動機が高まる、と考えられています。

ただし、この研究が明らかにしようとしたのは、関心が強ければ行動が進む、という単純な話ではありません。むしろ、2つのテーマの両方に強い関心を持つ人ほど、板挟みが強く意識されるのではないか、という問いです。第3回で見るその結果は、直感とは少し違うものでした。

今日からできること

  • 「毎晩できていない自分」を意志の問題として責めるのを、いったんやめる
  • 猫のためと外の生き物のため、自分がどちらをどれくらい大切に感じているかを言葉にしてみる
  • 「うちの猫は狩りをしない」という印象を、見えていないだけの可能性として持ち直す

まとめ会話

マロン学長「ぼくだけじゃなかったんだね、ちょっと安心したよ。」

いち教授「そうだね。次回は、この研究がどんな方法で2005人を調べたのか、詳しく見ていこう。」

次回予告

第2回は、この研究がどのような方法で調査を行い、飼い主の気持ちをどう測ったのかを詳しく見ていきます。

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