爪とぎは「悪いこと」じゃない
猫にとって爪とぎがどんな意味を持つ自然な行動なのか、なぜ家具への爪とぎが「問題」として扱われるのかを紹介します。

導入会話
マロン学長「うちの子、ソファの角でよく爪とぎするんだけど、そのたびに『あーあ』って気持ちになっちゃうんだよね。」
いち教授「マロン学長の気持ちもわかるけど、猫にとって爪とぎは、決して『悪さ』でやっているわけじゃないんだ。今日はまず、そこから整理しよう。」
この回でわかること
- 爪とぎは爪の健康・マーキング・コミュニケーションを兼ねる自然な行動
- この研究はフランスの飼い主1,211人への質問票調査
- 「あるかないか」ではなく頻度と強さの程度を見た研究
ソファがボロボロ……でも、それって「悪さ」なの?
爪とぎには、爪の健康を保つ、縄張りをマーキングする、他の猫や人へのコミュニケーションといった、複数の役割があります。猫にとっては、生活の中でごく自然な行動の一つです。
論文の導入部は、猫が人と1万年近く暮らしてきた一方で、行動の多くは単独で暮らしていた祖先のままだと説明しています。社会的でありながら縄張りの意識も強い。その複雑さのために、猫の行動や環境の必要性は、知識のある人にも読み違えられやすいのだと述べています。爪とぎが家具に向くのは、その読み違えが表に出る場面の一つです。
マロン学長「じゃあ、家具で爪とぎされるのも、仕方ないってこと?」
いち教授「『仕方ない』というより、『対象を変えてもらう工夫ができる』と考える方が近いかな。今日紹介するDemirbaşらの研究は、まさにその工夫のヒントになる論文なんだよ。」
1,211匹の飼い主に聞いた、大規模な調査
この研究は、フランスの猫の飼い主1,211人を対象にしたオンライン質問票調査です。対象となった猫は、いずれも過去1か月以上、週2回以上の頻度で家具などへの爪とぎ(望ましくない爪とぎ)を示していました。
参加の条件はほかにもあります。多頭飼育のストレスが影響しないように、猫が1匹だけの家庭に限られました。そして、爪とぎポストやキャットタワーなど、猫がいつでも使える爪とぎ用品を少なくとも一つ持っている家庭だけが対象です。「爪とぎ用品があるのに家具で爪とぎをする猫」を、はじめから選んでいることになります。
質問票は3部に分かれています。飼い主の属性、猫の日課・社会的な関わり・環境・行動・気質、そして望ましくない爪とぎの頻度と強さです。爪とぎの頻度は過去1週間に見た、あるいは新しい傷から推測した回数を、7段階で答えました。
極端な対応は避けたい
論文では、家具への爪とぎが飼い主のフラストレーションにつながり、時には猫を手放したり、爪を切除する手術(オニコクトミー)を選んだりする対応につながることもあると紹介されています。多くの獣医療機関は、この手術に反対の立場を示しています。
論文はもう一つ、叱るなどの対立的な対応で猫のストレスと爪とぎが同時に増えると、飼い主のいらだちがさらに強まる、という悪循環も指摘しています。爪とぎは、緊張への反応としてのマーキングになることがあるからです。この研究が「あるかないか」ではなく頻度と強さの程度に注目したのは、その悪循環のどこに手を入れられるかを探るためでもあります。
今日からできること
- 爪とぎを見つけたら、叱る前に「どこで、何に、どれくらい」を一度書き出す
- 爪とぎ用品が家にあるか、猫がいつでも使える場所にあるかを確かめる
- 「悪さ」ではなく「向かう先を変えられる行動」として捉え直す
まとめ会話
マロン学長「爪とぎそのものを悪者にしなくていいんだね。」
いち教授「そう。次回は、実際にどんな猫が強い爪とぎをしやすいのか、調査の方法とあわせて見ていこう。」
次回予告
第2回は、この調査がどのように行われ、猫の性格特性がどう測定されたのかを見ていきます。