発声率以外に差はあった?
心拍、呼吸、瞳孔、姿勢など差を検出しなかった指標を確認し、鳴き声だけで猫のストレスを確定しない理由を読みます。

導入会話
マロン学長「声が増えたなら、心拍や姿勢も全部変わったのかな?」
いち教授「そこが大事なところだよ。確認された差と、確認されなかった差を分けよう。」
この回でわかること
- 飼い主条件で差を検出しなかった指標
- 「差がない」と「検出しなかった」の違い
- 発声をほかの反応と合わせる見方
他の行動・生理指標には差を検出しなかった
身体診察期に測った心拍数、呼吸数、瞳孔拡張率、発声以外の行動では、飼い主の同席・不在による差を検出しませんでした。
飼い主が話しかけた時間、触れた時間、接触を始めた回数と、猫の発声、口なめ、逃げようとする動きとの間にも、統計的に有意で中程度以上の相関は検出されませんでした。
この研究は「飼い主がいれば猫の反応が全部弱くなる」とは示していません。
検出しなかったことは「影響なし」の証明ではない
研究に差が出なかった時、「二つの条件は完全に同じ」とは限りません。対象が33組だったため小さな違いを捉える力が足りなかった可能性があります。
さらに猫は、キャリー、車での移動、待合室、見知らぬ人、診察台など複数の刺激を経験しました。著者らは、刺激が重なったため飼い主の有無だけの小さな影響を分離しにくかった可能性を挙げています。
1匹は引っかく・噛もうとする行動で診察を早く終え、診察期の解析から外れました。5匹では喉鳴らしのため心拍を測れませんでした。強い反応が出た場面や欠測も、結果の範囲に含めて読みます。
著者らは、不在時に声が増えたことを、分離に対する軽い急性のストレス反応と読める可能性を述べています。同時に、猫の発声は文脈によって役割が変わり、否定的な場面で常に信頼できる指標ではないとも明記しています。飼い主を探して呼ぶ声なのか、環境への不安の声なのか、この研究では区別していません。
猫と飼い主の関係尺度の得点によって同席の効果が変わるかも調べられましたが、差は検出されませんでした。ただし参加者の得点が高い方に偏っていてばらつきが小さかったため、「絆は関係しない」とは結論できない、と著者らは書いています。
発声だけでも結論にしない
ニャーは目立つため記憶に残ります。しかし、猫によって声の出やすさは違い、同じ猫でも移動中、診察室、飼い主との分離で役割が変わる場合があります。
発声が増えた時は、体を低くしたか、逃げようとしたか、動きを止めたか、呼吸や普段の様子が変わったかも見ます。家庭で恐怖や痛みを診断せず、病院へ渡す観察記録にします。
屋外アクセスの結果は推奨へ使わない
この研究では、監督つきで屋外へ出る猫に、一部の発声率やキャリーから出るまでの時間が短い関連も見つかりました。ただし飼育条件を無作為に割り当てた研究ではありません。猫や家庭の背景差が結果に関係した可能性があります。
外へ出せば診察で落ち着く、室内猫は弱いとは言えません。屋外アクセスの効果を調べた介入研究ではないためです。
今日からできること
- 声の有無だけでなく、姿勢・移動・逃げようとする動きを一緒に記録する
- 差が出なかった指標を「影響なし」と言い換えない
- 屋外アクセスの結果を家庭の飼育変更へ使わない
まとめ会話
マロン学長「鳴いたことは大切。でも、鳴き声だけで全部は分からないんだね。」
いち教授「その通り。複数の反応と研究の限界を一緒に持っておこう。」
次回予告
飼い主が答えた「同席したい」という希望を、猫の反応と分けて読みます。
参考文献
Hare LV, et al. (2025). Applied Animal Behaviour Science, 292, 106792. https://doi.org/10.1016/j.applanim.2025.106792