耳・尾・姿勢を一つの意味へ固定しない
状態と出来事を分け、耳・尾・姿勢を直前直後や対象と一緒に記録する見方を学びます。

導入会話
マロン学長「寝ながら尾先だけ動かしたら、『機嫌が悪い』って書けばいいのかな?」
いち教授「見えた事実は尾先の動きだね。気持ちの推定は、その時の姿勢、対象、前後の変化と分けておこう。」
この回でわかること
- 状態(S)と出来事(E)の違い
- 耳・尾・姿勢を細かく記録する方法
- 単独サインで意味を確定しない理由
SとEは時間の分類
エソグラムでは各行動にSまたはEが付きます。Sは比較的長く続く状態、Eは短い間に何度も起こり得る出来事です。たとえば「尾を上げている」は状態、「尾を打ちつける」は出来事として扱われます。
この区別は、何秒おきに見るか、回数と時間のどちらを数えるかを決めるためにあります。Sは穏やか、Eは強い感情という意味ではありません。
状態は持続時間を、出来事は回数を記録しやすいという違いです。同じ猫でも短い出来事が続いて状態のように見えることがあり、観察の開始と終了を決めておく必要があります。
SとEの区別は、観察のしかたを選ぶためのものでもあります。状態が中心なら「10分ごとに全員の姿勢を見る」という方法が向き、出来事が中心なら「起きるたびに数える」方法が向きます。第2回で見た個体追跡法とアドリビタム法の組み合わせも、この違いに合わせた選択です。家庭で記録する時も、「どれくらい続いたか」を書きたい行動と「何回あったか」を書きたい行動を分けておくと、後で比べやすくなります。
「しっぽを振る」を分けて書く
論文は尾について、通常位置、上げる、大きく振る、先端などを小さく動かす、面へ打ちつける、細かく震わせるといった単位を分けました。
家庭の記録でも、「しっぽを振った」だけで終えず、尾全体か先端か、左右か上下か、床へ当たったか、何回か、猫は寝ていたか立っていたかを書けます。さらに、人が触れた直後、窓の外を見ている時、他の猫が近づいた時など対象を加えます。
同じ尾の動きでも文脈が違えば、後に続く行動も変わります。尾だけの辞書から一語の感情を引くより、観察情報を残す方が再確認できます。
マロン学長「尾の先だけピクピクするのと、床にバンバン打つのは、別の項目なんだね。」
いち教授「そうだよ。一緒に『しっぽを振る』とまとめると、そこにあった違いが消えてしまう。」
耳と体も組み合わせる
耳は通常位置、後方、前方、頭へ平らに近づける姿勢へ分けられました。体には首を下げる、背を丸める、前足を上げる、凍る、後退する、逃げるなどがあります。
耳を後ろへ向けた時、音の方向へ片耳だけ動かしたのか、体も低くしたのか、相手から離れたのかで記録は変わります。「怒り」「怖い」と最初から書くと、後で別の可能性を検討しにくくなります。
観察欄と解釈欄を分けましょう。観察欄には「右耳を後ろへ向け、尾先を3回動かし、顔を手から離した」。解釈欄には「接触を続けたくなかった可能性」と仮に書きます。仮説は、猫の次の選択で見直します。
今日からできること
- 尾は「全体・先端・打ちつけ・震え」を分ける
- 耳、体の高さ、視線、距離を一緒に記録する
- 事実と「〜かもしれない」を別の欄に書く
まとめ会話
マロン学長「ぼくの気持ちを当てる前に、どこがどう動いたかを残すんだね。」
いち教授「そうだよ。細かい事実があれば、後から場面全体を読み直せるんだ。」
次回予告
検索されやすい頭突き、香箱、ヒゲ、鳴き声を、エソグラムでどこまで扱えるか整理します。
参考文献
Kappel I, et al. (2024). Ethogram of the Domestic Cat. Pets, 1, 284–314. https://doi.org/10.3390/pets1030021