170匹・55.31時間をどう観察した?
アドリビタム法、1分交代の個体追跡法、文献検索、模式図の作り方と偏りを読みます。

導入会話
マロン学長「55.31時間も見たなら、猫の行動は全部そろったと考えていい?」
いち教授「長い観察だけれど、見えやすい行動と見えにくい行動があるよ。二つの観察法をどう組み合わせたかから読もう。」
この回でわかること
- 動画を集めた場所・期間・対象
- アドリビタム法と個体追跡法の役割
- 文献検索と模式図に残る限界
6年間、ドイツ5地域で撮影
動画は2017年7月から2023年7月までに、フルダ、イェーナ、ニュルンベルク、オスナブリュック、ベルリン広域で集められました。対象は個人宅の猫と自由生活猫170匹で、合計55.31時間です。
最初はアドリビタム法で、見つけた行動を広く記録しました。決まった個体や時刻へ限定しないため、全体像や珍しい出来事を拾いやすい反面、よく動く猫、撮影者の近くにいる猫、目立つ出来事へ注意が偏ります。
長時間の動画でも、すべての行動が同じ確率で映るわけではありません。
1分ごとに焦点個体を交代
主要カテゴリーを決めた後は、個体追跡法で全動画を評価しました。複数の猫が映る場合は観察順を決め、1分ごとに焦点個体を替えました。猫が画面外へ出た時は、その猫の計時を止めています。一匹だけの動画では、その猫を全時間追いました。
個体追跡法は行動の連なりを記録しやすい一方、見えない場所の行動は拾えません。猫は食事や交尾で人目を避けることがあり、こうした行動は過少になり得ると著者らも認めています。
出産、交尾、関連する発声については、通常の素材だけでは足りず、保護施設や飼い主のネットワークへ動画を依頼しました。そのため全項目が同じ集め方ではありません。
観察者訓練と文献検索
観察者は同じ例動画を記録し、第一著者の記録と比べました。ずれを話し合い、新しい標本で繰り返し、記録のずれが5%未満になるまで訓練しました。ただし、Cohenのκなど正式な観察者間一致係数は報告されていません。
文献は学術データベースとGoogle Scholarで検索し、4160件から関連する20件を残しました。本文は系統的検索と表現しますが、除外理由を段階別に示す選別図や研究の質評価はありません。体系的なレビュー結果というより、カタログ構築に使った文献調査として読むのが安全です。
専門家と英語話者による検討
模式図を含む草案は、複数の専門家と英語を母語とする人が批判的に検討し、文脈や表現の食い違いを合意に至るまで話し合いました。観察は猫を妨げない非侵襲的なもので、個人宅の飼い主から撮影の同意を得ているため、倫理審査は免除されています。資金はドイツ研究振興協会のプロジェクトと大学病院のオープンアクセス出版基金で、著者らは利益相反なしとしています。補足の動画・音声はZenodoで公開されています。
図は「代表形」
模式図は動画の静止像を抽象化し、頭、瞳孔、ヒゲ、耳、尾の位置を重視しました。一方、顔の微細表情は明瞭さのため省かれています。同じ行動でも猫の体格、角度、速度、強度には幅があり、図と完全一致しないから別行動とは限りません。
今日からできること
- 動画を撮る時は、目立つ瞬間だけでなく前後も残す
- 多頭なら「誰を見ていたか」を記録する
- 画面外や見えない時間を「何もしていない」と数えない
まとめ会話
マロン学長「数が大きくても、見え方や集め方の偏りは残るんだね。」
いち教授「うん。方法を知ると、一覧を完成品ではなく更新できる土台として読めるんだ。」
次回予告
耳、尾、姿勢を一つの感情へ固定せず、状態と出来事として記録する方法を学びます。
参考文献
Kappel I, et al. (2024). Ethogram of the Domestic Cat. Pets, 1, 284–314. https://doi.org/10.3390/pets1030021