53匹・顔サイン688件をAIで追った
保護猫カフェの成猫53匹・顔サイン688件を、AIでどう距離推定したかを解説。人による文脈分類、猫の高さ34cmという仮定、平均距離ではなく分散を扱った主解析まで整理します。

導入会話
マロン学長「AIで顔サインを調べたなら、猫の気持ちも自動で分かったの?」
いち教授「AIが担当したのは猫の位置と距離の推定だよ。文脈は研究者が行動を見て分類したんだ。」
マロン学長「AIと人が別の役割を持っていたんだね。」
いち教授「対象、分類、距離計算を順に確認しよう。」
この回でわかること
- 1施設の成猫53匹、顔サイン688件を分析した
- AIは猫の輪郭と奥行きから推定距離を計算した
- 距離換算には全個体の高さを34cmとする仮定がある
1年間に集めた動画
研究場所はロサンゼルスの保護・譲渡施設1か所です。常時約20-30匹の成猫が過ごし、全頭が避妊・去勢済みでした。2021-2022年に、自然に起きた猫同士のコミュニケーションを手持ちカメラで便宜的に撮影しました。
研究では成猫53匹、186回のコミュニケーション、184本・計194分の動画から、688件の顔サインを符号化しました。
マロン学長「688件は688匹や688ペアではなく、53匹が出した顔サインの数なんだね。」
いち教授「その通り。同じペアの繰り返しは統計モデルで考慮したよ。」
特定の猫を一日中追った動画ではありません。顔サインが起きそうな場面を便宜的に撮ったため、顔サインの発生率や、猫同士が一日中どれくらい近くにいたかは分かりません。
人が顔サインと文脈を分類した
研究者は、別の猫へ顔を向けて見つめながら作った顔筋動作の組み合わせを顔サインとして記録しました。顔筋動作の観察者間一致を動画の10%で確かめ、Wexler比は0.707でした。
親和的・非親和的という文脈も人が分類しました。同じ10%に対する一致率は75%でした。
マロン学長「4件に1件ほどは、2人の分類が一致しなかった計算なんだね。」
いち教授「途中で行動が変わる場面を二つに分ける難しさが表れているよ。」
AIが親和性や感情を判定したわけではありません。人の文脈分類と、AIによる距離推定を組み合わせた研究です。
AIで猫同士の距離を推定
各動画フレームにSegment Anything Modelを使って猫の領域を切り分け、Depth Anything V2でカメラからの奥行きを推定しました。猫の中心位置と奥行きから3次元座標を作り、猫2匹の中心間距離を計算しました。
ピクセルをメートルへ換算するため、全個体がカメラに対して垂直に立った時の高さを34cmと仮定しました。
マロン学長「一匹ずつ実際の身長を測ったわけではないんだね。」
いち教授「うん。体格や姿勢の違いで、絶対距離には誤差が入りうるよ。」
研究で示された0.5mや1.7mは、家庭で定規のように使う値ではありません。比較のパターンも1施設の撮影条件の中で得られたものです。
論文を深く読む
主解析では、各顔サインの動画区間にある距離の分散を計算し、「近接の偏り」と呼びました。平均距離ではなく、動画内で距離がどれほどばらついたかを表す指標です。
この値を従属変数とし、性構成と社会的文脈を固定効果、ペアの識別情報をランダム効果とするGLMMを使いました。別に、1秒の移動平均で距離の増減が切り替わる回数も記述しました。
平均的に何cm離れたかと、動画内で距離がどれほど動いたかは別の測定です。次回は、原著がこのモデルをどのように「近い」と解釈したかも分けて読みます。
今日からできること
- 「AI解析」とあったら、AIが何を測り、人が何を分類したかを分ける
- 距離の数値を見る時、体格の仮定と測定誤差を確認する
まとめ会話
マロン学長「AIは気持ちを読まず、動画から距離を推定したんだね。」
いち教授「そうだよ。文脈は人が分類し、主解析は距離の分散だったことも覚えておこう。」
マロン学長「非親和的な場面の方が近いという結果は、どう読めばいいのかな?」
いち教授「次は著者の結論と、解析指標から直接いえることを分けよう。」
次回予告
予測と逆だった文脈の結果を、距離の分散と時間変化から読み直します。