猫が速く近づいたのは、視覚的な合図を含む条件
接近潜時を4条件で比べた結果と、声だけ条件の合図が不一致だった可能性を、事実と著者の仮説に分けて整理します。

導入会話
マロン学長「いよいよ結果だね。どの条件で速く近づいたの?」
いち教授「手や視線、ゆっくり瞬きを含む視覚条件と、それに声を加えた複合条件が速かったんだ。」
この回でわかること
- 視覚条件と複合条件の接近潜時
- 声条件と対照を「同じ」とは言えない理由
- 合図の不一致は著者の仮説であること
視覚条件・複合条件が速かった
近づくまでの時間は、視覚条件で平均29±6.9秒、複合条件で32±7.0秒でした。一方、声条件では51.8±7.3秒、対照では57.5±7.6秒でした。視覚・複合条件は、声・対照条件より統計的にはっきり速い結果でした。
少なくとも1回は近づいた猫の数も、対照6頭、声7頭、視覚10頭、複合9頭と、視覚的な合図を含む条件で多くなりました。
平均に付いている「±」の数字は、猫ごとのばらつきを示す標準誤差です。12頭という小さな集団なので、平均だけを見ると印象が強くなりますが、猫によって差があることも一緒に読んでおきます。近づかなかった試行は75秒として計算に入っているため、声条件と対照条件の平均が長いのは、遅く来た猫が多いというより、来なかった試行が多かったことの反映でもあります。家庭で「呼んでも来ない」と感じる時も、来るのが遅いのか、その日は来る気がないのかを分けて見ると、猫の側の事情が少し見えやすくなります。
マロン学長「声だけと何もしない条件は、どちらも遅めだったんだね。」
いち教授「ただし、その2条件を直接比べた有意差は報告されていないよ。『同じだった』とまでは言わないようにしよう。」
なぜ声だけだと近づきにくかったのか
論文では、声だけで呼びかけながら視線を合わせないという組み合わせが、猫にとって「ちぐはぐ」に感じられた可能性が考察されています。
マロン学長「呼ばれてるのに、目を合わせてもらえないって、たしかに変な感じだね。」
いち教授「著者らはそう仮説を立てたんだ。でも、この実験は合図の一致・不一致そのものを操作した研究ではないよ。」
先行研究には、視覚と音声の感情情報が一致するかどうかに猫が反応したという報告があります。著者らはそれを手がかりに、今回の「声を出すが猫を見ない」という設定が自然な組み合わせから外れていた可能性を述べました。可能性の説明であり、この研究で直接確かめた結論ではありません。
犬の研究でも、視覚的な合図(身振り)の方が声よりも速い反応を引き出しやすいという報告があり、今回の猫の結果とも近い傾向が見られます。
著者らはもう一つ、相手が「見知らぬ人」だったことの意味を考えています。犬の訓練研究では、視覚的な合図は誰が出しても効きやすいのに対して、声の合図は知らない人が出すと効きにくい、という報告があります。猫でも、飼い主とのやりとりでは声が大きな役割を持ち、見知らぬ人との場面では視覚的な合図が前に出るのかもしれない、というのが著者らの見立てです。飼い主の声に猫が反応しないという話ではなく、相手が誰かによって効く合図が変わる可能性、と読むのが近そうです。著者らも、飼い主と猫の組み合わせで同じ実験を行うことを今後の課題に挙げています。
今日からできること
- 「視線だけが声より優れる」と単純化せず、手・視線・瞬きの組み合わせとして読む
- 声を避けるのではなく、猫から見える合図と矛盾させない
まとめ会話
マロン学長「声をやめる話じゃなくて、合図をそろえる話なんだね。」
いち教授「うん。ただ、それだけじゃないんだ。次回は、しっぽを振る行動の結果を見ていこう。」
次回予告
第4回は、しっぽを振る行動が条件によってどう変わったのかを見ていきます。