ニャーは「誰か」より「何をしてほしいか」を運ぶ
ニャーの形が場面や経験で変わりやすいこと、飼い主との間で形づくられる可能性を扱う第3回です。

導入会話
いち教授「マロン、猫のニャーって、いつも同じ声かい?」
マロン学長「ううん、ごはんの時とドアの前とで全然ちがう!」
いち教授「そこが今日の話だよ。ニャーは形が変わりやすいんだ。」
この回でわかること
- ニャーは場面や気持ちによって形が変わる
- 変わりやすさが、個体らしさの弱さにつながっている可能性
- 飼い主と猫のペアごとに形づくられるという考え方
変わることが仕事の声
ニャーは、口を開けて出し、だんだん閉じながら終わる声です。高さも長さも節回しも、場面によって変わります。研究で報告されている高さの幅は、およそ208Hzから1000Hzまでと広いものです。
猫同士ではあまり使われません。使われるとしても、なわばりの争いや相手を探す場面などに限られ、子猫から若い時期に多いとされています。一方で、人との間ではよく使われます。遊びの場面、関心を求める場面、食べ物を求める場面などです。
研究者は、ニャーが場面や気持ち、それまでの経験によって形を変えることが、毎回同じ形になりにくいことにつながっていると述べています。同じ猫でも声の形が揺れるので、統計モデルにとっては本人を当てにくくなるわけです。
マロン学長「毎回ちがうから、当てにくいのか。」
いち教授「そういうことだね。そして、それは欠点とは限らないんだ。」
その家だけで通じる形
もうひとつ、興味深い考え方が示されています。ニャーの形は、飼い主と猫のペアごとに特有かもしれない、というものです。
猫が鳴く、人が応じる。それを何度も繰り返すうちに、その組み合わせでだけ通じる形に少しずつ整えられていく。研究者は、こうした過程が働いている可能性を挙げています。
そして、ここが大事なところです。飼い主は、鳴いているのが誰かをすでに知っています。同居猫が何匹いても、姿を見れば分かります。だからニャーは、声で名乗る必要がありません。
マロン学長「誰かを伝えるより、何をしてほしいかを伝える方が役に立つんだね。」
いち教授「そう読める。ニャーは『誰か』より『何を』に寄っている、という見方だよ。」
「うちの猫は変な鳴き方」でいい
この見方に立つと、猫の鳴き方がよその猫と違うというだけでは、異常とはいえません。その家で育った形かもしれないからです。ただし、この研究は鳴き方と病気の関係を調べたものではありません。
ただし、これは推測を含む解釈です。この研究は、ペアごとの形を直接確かめたわけではありません。
今日からできること
- 猫が鳴く場面を、いくつかに分けて記録してみる
- 「よその猫と鳴き方が違う」を、それだけで問題として扱わない
- 鳴き方が急に変わった場合は、意味を考える前に体調を疑う
まとめ会話
マロン学長「うちの猫の声は、うちで育った声なのかもしれないんだ。」
いち教授「そう考えると、少しうれしい話でもあるね。」
マロン学長「次は野生のネコと比べるんだよね?」
いち教授「うん。イエネコの声がどれくらい特別なのかを見よう。」
参考文献
- Russo D, Schild AB, Knörnschild M. Meows encode less individual information than purrs and show greater variability in domestic than in wild cats. Scientific Reports. 2025;15:43490. https://doi.org/10.1038/s41598-025-31536-7