4つの音声実験をどう比べた?——論文を深く読む
猫の名前識別を調べた4つの馴化―脱馴化実験を、対象、刺激、盲検評価、参加個体の重なりから深く読みます。公式PDFに残る旧数値とAuthor Correctionの修正点も整理します。

導入会話
マロン学長「実験は4つもあるのに、全部まとめて『猫は名前がわかる』と言っていいの?」
いち教授「比較した語、話者、生活環境が違うから、役割を分けて読もう。」
マロン学長「同じ猫が何度も参加したのかも気になるな。」
いち教授「対象数、馴化基準、評価者、訂正文まで順に確かめてみよう。」
この回でわかること
- 4実験の違いと参加個体の重なり
- 反応を知らない評価者が判定した方法
- Author Correctionで直った数値
4実験は同じ問いではない
実験1は一般家庭の猫16匹へ、飼い主の声で四つの一般名詞と自分の名前を聞かせました。実験2は、少なくとも5匹で暮らす家庭猫24匹と猫カフェ猫10匹へ、四つの同居猫名と自分の名前を聞かせました。
実験3は家庭猫20匹と猫カフェ猫9匹へ、再び一般名詞と自分の名前を聞かせました。実験4は家庭猫30匹と研究室猫3匹へ、知らない女性の声で一般名詞と名前を聞かせました。
4実験の参加枠は16、34、29、33で計112です。しかし実験3の29匹中26匹は実験2にも参加しました。実験4にも、訂正文によれば実験1参加済み4匹、実験2・3参加済み5匹が含まれます。
計112は実験への参加枠で、112匹の別々の猫を調べたという意味ではありません。
マロン学長「実験3は、実験2とほぼ同じ猫に違う種類の語を聞かせたんだね。」
馴化した猫だけを主要比較へ入れた
最初の三刺激への平均反応より4番目への反応が小さいことを、馴化の基準にしました。主要な比較は、その基準を満たした猫の4番目と5番目の反応です。
馴化したのは、実験1が16匹中11匹、実験2が34匹中15匹、実験3が29匹中21匹、実験4が33匹中20匹でした。特に実験2の家庭猫では24匹中6匹しか馴化していません。
馴化しなかった猫が名前を区別できないとは限りません。最初から反応が小さい、四つの語でも反応が下がらないなど、理由はいくつも考えられます。
「馴化した猫で反応差が出た」と「参加した猫全体で同じ割合の差が出た」は別です。
評価者は音を知らずに動画を見た
行動の有無は、耳、頭、発声、しっぽ、位置移動の五項目です。第一評価者が全動画を記録し、4分の1を第二評価者が記録しました。一致率は耳0.75、頭0.81、発声0.99、しっぽ0.97、移動0.99、全体のカッパ係数は0.76でした。
反応の大きさは0〜3の4段階です。評価者は音声を聞かず、動画がどの刺激に対応するかも知らない状態で判定しました。評価者数は実験ごとに10、6、6、9人で、Kendallの一致係数は0.73、0.73、0.65、0.55でした。
盲検化は判定の偏りを減らします。一方、実験4の0.55はほかより低く、判断しやすい反応ばかりではありませんでした。
行動が出たかを単純に合計した得点は、実験2だけで名前への増加が有意でした。実験1・3・4の中心的な結果は、盲検評価者が見た反応の大きさに基づきます。
マロン学長「数えた行動と、全体としてどれくらい反応したかは別の測定なんだ。」
名前はいつも5番目だった
自分の名前は全ての試行で5番目でした。4番目まで低下し、5番目で戻る設計で識別を見ます。
ただし5番目に新しい一般名詞を置く別条件はなく、5刺激目という位置の影響を完全には切り分けられません。音響分析も一部刺激と六変数だけで、全ての音響差がないと証明したわけではありません。
設計が支持する範囲を認めながら、置かれていない対照条件まであるように読まないことが大切です。
訂正文が直したもの
2019年9月のAuthor Correctionは、実験3の年齢範囲を1〜11歳から1〜12歳へ修正しました。実験4は、一般家庭21世帯30匹ではなく19世帯30匹で、家庭の飼い主は男性1人・女性18人です。研究室猫3匹の飼い主は男性1人・女性1人でした。
実験4で実験1に参加済みの猫は3匹でなく4匹です。補足表S5のNgboiとNnnは、訂正後2歳と7歳です。
公式PDFは「Corrected」表示でも本文に旧数値が残ります。主要な統計結果や結論は訂正されていません。
今日からできること
- 対象数を見る時は、分析に入った猫と再参加を確認する
- 訂正表示がある論文は、訂正文の内容まで読む
まとめ会話
マロン学長「4実験は参加枠112でも、同じ猫の再参加がある。主要比較は馴化した猫だけなんだね。」
いち教授「その通り。盲検評価は強みだけれど、一致度や測定の違いも残るよ。」
マロン学長「PDFの訂正表示だけで安心せず、訂正文の修正値も使う。」
いち教授「丁寧に読めたね。次は耳と頭の小さな動きの意味を考えよう。」
次回予告
第3回は、反応の大きさと行動数を分け、名前を聞いても来ない猫をどう見るか考えます。
参考文献
- Saito A, et al. Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words. Scientific Reports. 2019;9:5394. https://doi.org/10.1038/s41598-019-40616-4
- Saito A, et al. Author Correction. Scientific Reports. 2019;9:13265. https://doi.org/10.1038/s41598-019-46257-x