耳と頭の小さな動きは何を示す?
猫が名前を聞いた時に見せた耳や頭の小さな動きを、発声、しっぽ、移動と分けて読みます。反応の大きさと行動数、聞き分けることと近づく選択の違いを実験から整理します。

導入会話
マロン学長「名前を呼ばれて耳だけ動かしたら、ちゃんと返事したことになるかな?」
いち教授「耳の動きは聞いた時の反応として記録できる。でも気持ちや返事の意図までは決められないよ。」
マロン学長「実験では、どんな動きを数えたの?」
いち教授「五つの行動と、反応全体の大きさを別々に見ているんだ。」
この回でわかること
- 実験で記録した五つの反応
- 行動数と反応の大きさの違い
- 名前を聞いても来ないことの読み方
半数を超えたのは耳か頭の動き
研究者が記録したのは、耳を動かす、頭を動かす、声を出す、しっぽを動かす、体の位置を変えるという五つです。全実験を通じて、半数を超える猫が耳か頭を動かしました。
一方、発声、しっぽの動き、場所の移動は、それぞれ10%未満でした。名前を聞き分けた可能性がある場面でも、大きく鳴く、立ち上がる、スピーカーへ向かうといった目立つ行動が中心ではありません。
猫の耳は左右を別々に動かせます。休んだ姿勢を保ったまま、音がした方向へ耳だけを向けることもあります。頭を少し上げる、動きを止めるような短い変化も、人が「来たかどうか」だけを見ていると見落としやすい反応です。
この研究の名前反応は、呼び戻しではなく、主に耳や頭に現れた小さな定位反応です。
マロン学長「動かなかったように見えても、耳は情報を取りにいっているかもしれないね。」
行動が出たかと、反応が強いか
五つの行動は、出たか出なかったかで記録されました。それを合計すれば、0〜5の総行動得点になります。しかし耳と頭だけをはっきり動かした猫と、耳、しっぽ、発声をわずかに出した猫では、行動の数と全体の目立ち方が一致しないことがあります。
そこで別の評価者たちが、音声を聞かず、どの刺激かわからない状態で動画を見て、反応の大きさを0〜3で判定しました。実験1・3・4では、単純な総行動得点に4番目と名前の差は出ませんでしたが、盲検評価された反応の大きさには差が出ました。総行動得点も増えたのは実験2です。
研究結果を紹介する時は、「反応が大きくなった」を「より多種類の行動をした」と置き換えられません。測定の作り方が違うからです。
同じ動画でも、行動の種類を数える問いと、全体の反応強度を見る問いでは答えが違い得ます。
評価者同士はどれくらい一致したか
五つの行動の記録は、第一評価者が全て行い、4分の1を第二評価者も確認しました。行動ごとの一致率は耳0.75、頭0.81、発声0.99、しっぽ0.97、移動0.99でした。全体のカッパ係数は0.76です。
反応の大きさについて、複数評価者の一致は実験1と2で0.73、実験3で0.65、実験4で0.55でした。知らない人の声を使った実験4は一致が低めです。
一致が完全でないことは、小さな耳や頭の動きを段階評価する難しさを表します。それでも刺激を知らない評価者を使ったことは、名前だと知っている人が反応を大きく見積もる偏りを減らす工夫です。
マロン学長「数字が一つ出ても、誰がどう見ても同じ反応だったとは限らないんだね。」
来ないことは、聞こえないことではない
名前を聞き分けた後、猫が近づくかどうかは別の選択です。眠い、今の場所が快適、別の物へ注意が向いている、呼ばれた後に起きることが魅力的でないなど、行動には多くの条件が関わります。
この研究は、スピーカーから語を聞いた時の自然な反応を短時間で記録しました。猫へ近づく訓練をせず、正解の行動を求めず、食べ物も使っていません。だからこそ小さな反応を捉えられますが、呼び戻し能力は評価できません。
家庭では、名前を一度穏やかに呼んだ後、耳、頭、視線、ひげ、体の向き、数秒後の動きを見ます。来なかったからと声を大きくしたり、短時間に何度も連呼したりすると、最初の小さな反応を見失います。
聞き分けた可能性を認めても、その後の行動を人の希望どおりに選ぶ義務は猫にはありません。
反応がいつもない場合や、普段聞こえる生活音にも急に反応しなくなった場合は、名前理解の問題と決めず、日常の変化として記録します。この講座は聴力を診断するものではありません。
今日からできること
- 呼んだ直後の耳、頭、視線を数秒見る
- 来なければ連呼せず、猫の選んだ距離を保つ
まとめ会話
マロン学長「よく出たのは耳と頭で、鳴く、しっぽを動かす、移動する反応は少なかったんだね。」
いち教授「そうだよ。行動数と反応の大きさも分けて測られている。」
マロン学長「名前を聞き分けても、近づくかどうかはぼくが選べる。」
いち教授「その通り。次は家庭猫と猫カフェで違った結果を慎重に読もう。」
次回予告
第4回は、同居猫名との比較で生じた環境差と、そこから因果を決められない理由を学びます。
参考文献
Saito A, et al. Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words. Scientific Reports. 2019;9:5394. https://doi.org/10.1038/s41598-019-40616-4