飼い主のつらさは、猫に伝わったの?
WHO-5が低い飼い主ほど一部の猫行動得点が高かった関連を、双方向性と同じ回答者による評価から読みます。

導入会話
マロン学長「飼い主がつらいと猫も不安になる、と考えていいのかな?」
いち教授「この調査では、どちらが先かを決められないんだ。関連があった、というところで止めて読もう。」
この回でわかること
- WHO-5と猫の行動得点の関連
- 原因の向きを決められない理由
- 同じ人が両方を答えたことの意味
WHO-5が低いほど高かった得点
WHO-5が低いほど、猫の接触過敏性・飼い主への攻撃(χ²=4.614, p=.032)、犬への攻撃(χ²=6.821, p=.009)、分離関連行動(χ²=4.468, p=.035)が高い関連がありました。いずれもWHO-5と制限前後の交互作用はありません。
「接触過敏性・飼い主への攻撃」はFe-BARQの一つの尺度の名前です。触られることへの過敏さと飼い主への攻撃を、別々の二つの結果として数えてはいません。
犬の飼い主でも似た傾向があり、WHO-5が低いほど犬の恐れ、接触への過敏さ、分離に関わる問題、興奮しやすさの得点が高く、WHO-5が高いほど訓練のしやすさが高い結果でした。
この関連は、飼い主の心の状態が猫の行動を起こしたという証明ではありません。
どちらが先かは分からない
人の状態や関わり方が猫へ影響した可能性と、猫の行動が飼い主の負担になった可能性の両方があります。飼い主の気分が落ちて猫への接し方が変わり、猫が触られることを嫌がるようになった、という向きもあれば、猫に攻撃されたり留守中に問題が起きたりすることで飼い主の気分が落ちた、という向きもあります。横断の調査では、どちらが先かを決められません。
著者らも考察で、両方の向きが考えられると書き、犬については長い期間にわたってストレスが飼い主と犬の間で同期する可能性、飼い主の訓練方法が関わる可能性を挙げています。ただし、これらの行動も制限前後で統計的に変化しておらず、COVID-19、飼い主の状態、猫の行動を結ぶ因果には議論の余地があるとしています。
マロン学長「猫が原因で飼い主がつらい、という向きもあるんだね。」
いち教授「そう。『自分のせいで猫が』と一方向に決めると、猫の側で起きていることを見落とすこともある。」
同じ人が両方を答えた
さらにWHO-5も猫の行動も同じ飼い主が回答しており、回答時の認識が両方へ影響した可能性もあります。気分が落ちている時は、猫の行動を否定的に評価しやすいかもしれません。この場合、猫の行動は変わっていなくても、二つの得点の間に関連が出ます。
著者らが挙げた限界も並べておきます。回答者は高所得者、東京都在住者、女性に偏っていたこと。SNSと口コミによる自己選択の標本だったこと。猫の行動も人の状態も飼い主の主観評価だったこと。2020年7月以降の一時点の調査で、制限前の行動は約6か月後からの回顧だったこと。多数の探索的な検定を補正なしで行ったこと。接触の増加群と不変・減少群は無作為に分けたものではなく、もともとの家庭や猫の違いを分けられないこと。
猫を心のケアの道具にしない
この論文は、人の心を猫との関係で改善する方法を試していません。接触の増減とWHO-5の得点にも相関はありませんでした。猫と多く過ごせば気分が良くなる、という結果は出ていません。
猫を心のケアの道具にせず、人のつらさは人の相談先へ、猫の急な行動変化や体調不良は獣医師へ、別々につなげて構いません。二つを別々に扱うことは、どちらかを軽く見ることではなく、それぞれに合った相談先を使うということです。
今日からできること
- 「自分のせい」と決めず、人と猫の変化を別々に書く
- 必要な時は、人と猫それぞれの相談先を使う
まとめ会話
マロン学長「関連はあったけど、向きも、見る側の影響も分けられないんだね。」
いち教授「その通り。最後に、在宅で仕事をしながら猫と暮らす時に何を見るかをまとめよう。」
次回予告
テレワーク中の接触、休息、移動を、猫が選べる形に整えます。