臆病な猫は近くにいる?——p=.062の読み方
性格と行動圏の『小さい方向の傾向』を、個別予測へ変えずに読みます。

導入会話
マロン学長「怖がりな猫は、家のそばから離れないと分かった?」
いち教授「小さい方向の数字は出たけれど、『分かった』と言うには足りないよ。」
この回でわかること
- GPS17匹の行動圏の実測値
- p=.051・p=.062が非有意の「傾向」であること
- 脱走猫の居場所予測に使えない理由
『行動圏』は普段使う面積
GPSの点から求めた17匹の全行動圏は0.96〜3.63haで、中央値は1.42haでした。家の周りをよく使う中心域は0.11〜0.52ha、中央値0.16haです。これは普段の外出で使った場所の面積で、「家から何m以内」という半径ではありません。
小さい方向、でも有意ではない
飼い主評価の神経症傾向が高い猫ほど全行動圏が小さい方向でしたが、p=.062。協調性が高い猫ほど中心域が小さい方向もp=.051でした。研究の基準としたp<.05には、どちらも達していません。外向性や支配性でも有意な関連はありませんでした。
原著の要旨・結論の強い言い方より、本文の表で確かめた範囲を優先しましょう。標本は17匹で、年齢や性を同じモデルに入れられませんでした。表1には協調性の信頼区間とp値に丸め等による見かけのズレもありますが、ここではp=.051を採り、有意とは扱いません。
著者らの解釈と、期待外れだった特性
著者らは考察で、神経症傾向の高い猫は新しい状況を恐れて安全な場所を離れにくく、協調性の高い猫は飼い主の近くに留まるため、行動圏が狭くなるのかもしれない、と論じています。一方、外向性や支配性が行動圏の主要な予測因子にならなかったことは、著者らの予想に反していました。好奇心の強い猫は広く歩くかもしれないという予想は、この研究では確かめられませんでした。支配性の高い猫については、食べ物、水、隠れ場所がそろった家の近くの質の高い場所を守り、かえって狭い範囲を見張るのかもしれない、という別の可能性も挙げられています。実際に、異なる家庭の猫どうしの争いが、一方の家の庭で観察されています。
これらはいずれも17匹の結果に対する解釈で、仕組みを直接調べたものではありません。
マロン学長「好奇心が強いから遠くへ行く、は当たらなかったんだね。」
いち教授「予想が外れたことも、研究の大切な結果だよ。書いてあることをそのまま持ち帰ればいい。」
脱走した猫の居場所にはならない
この猫たちは日頃から自由に外へ出る飼い猫です。驚いて飛び出した猫や、見知らぬ場所でいなくなった猫を追っていません。たとえ普段の行動圏が小さい猫でも、脱走後の居場所をこの研究から決めることはできません。
数字の見方
表の推定値は「1」を基準に読みます。1より小さければ、その特性が高いほど面積が小さい方向、1より大きければ大きい方向です。神経症傾向の0.84や協調性の0.82は小さい方向ですが、95%信頼区間の上限が1を少し超えているため、「関連なし」の可能性が排除できず、有意ではないという判断になります。行動圏の中心域のモデルは面積の変動のおよそ半分を説明しましたが、17匹では年齢や性の影響を切り分けることができていません。
今日からできること
- p値が有意水準に届いていない結果を確定情報として扱わない
- 性格から行動圏を推測して外出管理を決めない
まとめ会話
マロン学長「小さい『傾向』と、うちの猫が近くにいる『証拠』は別なんだね。」
いち教授「その区別が大事。次はカメラに映った狩りを見よう。」
次回予告
協調性と捕食時間・イベント数には、どんな関連があったのでしょうか。
参考文献
Berrand B, et al. (2026). Ecology and Evolution, 16, e73520. https://doi.org/10.1002/ece3.73520