人懐こい猫は狩りをしない?——60イベントの中身
協調性と捕食の関連を、狩りをしない保証とは分けて読みます。

導入会話
マロン学長「人が大好きな猫は、鳥やネズミを追いかけないのかな?」
いち教授「この研究では『少ない関連』が見えた。でも『しない』とは別だよ。」
この回でわかること
- 60イベント・31捕獲という記録の中身
- 協調性と捕食時間・イベント数の関連
- 「人懐こい=狩りをしない」と言えない理由
カメラに映った60イベント
動画を解析できたのは13匹で、各猫10日分、計130猫日です。そのうち9匹で少なくとも一度の狩りがあり、60件の捕食イベントを記録しました。31件は獲物の捕獲に成功し、残る29件は追跡などの失敗した試みです。狩りは毎日同じ量ではなく、猫ごと・日ごとの違いが大きくありました。
記録された昼間の屋外時間のうち、平均87.7%は探索・観察・捕食などの活動に使われていました。狩りをした日でも、捕食に使った時間は記録時間の平均2.18%、中央値では0.39%です。イベント60件の標的は哺乳類27、無脊椎動物9、鳥3、爬虫類3、識別できないもの18で、捕獲31件のうち25件は哺乳類でした。9匹の内訳を見ると、24回のイベントで17回捕獲した猫がいる一方、6回追いかけて1回も捕まえなかった猫もいます。
協調性との関連
飼い主の質問票で、人への親しさを含む協調性が高い猫ほど、カメラで記録された捕食時間が短く、イベント数も少ない関連がありました。神経症傾向の高い猫では捕食時間が短い関連がありましたが、イベント数の差は統計的に明確ではありませんでした。
協調性の高さは、狩りをしないことの保証ではありません。13匹の観察から、個々の猫に「狩る/狩らない」というラベルを貼れません。年齢・性・生活環境や飼い主の習慣を十分に同時比較できていないため、性格が原因だとも言えません。
著者らは、協調性の高い猫は飼い主と過ごす時間や遊び・食べ物を多く得ているのかもしれない、神経症傾向の高い猫は警戒に注意を向けて獲物に集中しにくいのかもしれない、と考えられる説明を挙げています。外向性と捕食時間の関係はp=.075で有意ではありませんでしたが、好奇心が高い猫ほど多くの獲物に出会うという仮説は残しています。イベント数のモデルの説明力は低く、猫ごとの違いを考慮してもなお個体差が残りました。
「人懐こい」と「外の行動」
この研究での協調性は、人への友好性や愛情深さなどの回答から作った尺度です。人に甘える猫なら野生動物を捕らえない、という単純な二択に置き換えないことが大切です。
この研究での「捕食イベント」は、捕獲の成功だけでなく、待ち伏せの後に失敗した追跡も数えています。13匹×10日の130猫日のうち、捕食イベントがあった日は34日でした。同じ猫でも、狩る日と狩らない日があります。統計モデルは、記録時間が長い猫ほど多くのイベントが見つかりやすいことを補正し、同じ猫の10日分の記録が独立ではないことも考慮しています。それでも「130の独立した観察」ではなく「13匹」であることを忘れないようにします。
今日からできること
- 統計的な関連を個体の行動の保証にしない
- 人懐こい性格を理由に見守りを怠らない
まとめ会話
マロン学長「関連があっても、ぼくの猫の狩りがゼロとは言えないんだね。」
いち教授「うん。次は家へ持ち帰った獲物と、カメラに映った数の違いを見よう。」
次回予告
31件捕獲したうち、家へ持ち帰られたのは何件だったでしょうか。
参考文献
Berrand B, et al. (2026). Ecology and Evolution, 16, e73520. https://doi.org/10.1002/ece3.73520