247塩基の欠失は何を変えた?
猫のTas1r2で見つかった247塩基対の欠失は、DNAの読み枠をずらし、途中でタンパク質合成を止める変化につながりました。配列比較の手順と偽遺伝子の意味を解説します。

導入会話
マロン学長「247塩基がなくなったって、長い遺伝子の中では小さな変化にも見えるね。」 いち教授「数だけでは判断できないんだ。文章から途中の文字が抜けて、区切りが全部ずれる場面を想像してみよう。」 マロン学長「後ろの読み方まで変わるの?」 いち教授「そうなんだ。読み枠のずれと、途中で止まる合図を順に見てみよう。」
この回でわかること
- 猫の2遺伝子をどう取り出したか
- 247塩基対欠失で読み枠がずれる意味
- 偽遺伝子と判断した配列上の根拠
猫の遺伝子を取り出して比べる
研究チームは、猫のDNA断片を保存したBACライブラリーを探し、Tas1r2 と Tas1r3 を含む断片を見つけました。BACライブラリーは、大きなDNA断片を分けて保管した資料集のようなものです。
見つからなかった部分はPCRという方法で増やして配列を読みました。その結果、Tas1r3 のコード領域を含む3kb超と、Tas1r2 のコード領域を含む約10kbのゲノム配列を得ました。
猫の配列は、犬、人、マウス、ラットの対応する遺伝子と比較されました。Tas1r3 は他種とよく似た構造を保ち、予測されるT1R3タンパク質も865アミノ酸の長さでした。
一方、Tas1r2 には大きな違いが見つかります。
247塩基対が抜けると読み方がずれる
遺伝子のうち、タンパク質の情報を持つ部分をエクソンと呼びます。猫の Tas1r2 では、エクソン3に247塩基対の欠失がありました。
DNAは3塩基ずつ区切ってアミノ酸へ読み替えられます。247は3で割り切れないため、欠失より後ろの区切りがずれます。これがフレームシフト、または読み枠のずれです。
文章を3文字ずつ区切って読む途中で1文字が消え、その後の単語の切れ目がすべて変わるような状態です。元の配列と似ていた部分があっても、欠失より後ろは別の並びとして読まれます。
247塩基対の欠失は、長さが短くなるだけでなく、その後のタンパク質情報の読み方まで変えました。
マロン学長「小さく見える欠失でも、3文字の区切りがずれると後ろ全部に響くんだね。」
途中で止まる合図が複数あった
読み枠のずれにより、エクソン4の57〜59番に早すぎる終止コドンが生じました。終止コドンは、タンパク質合成を止める合図です。
仮にタンパク質が作られても、予測長は355アミノ酸でした。最初の315アミノ酸は他種のT1R2と似ていますが、その後の40アミノ酸は似なくなり、途中で終わります。
さらに研究チームは、エクソン4にもう1つ、エクソン6に3つの終止コドンを見つけました。ひとつの違いだけを根拠にしたのではなく、機能的なT1R2を作りにくい変化が複数確認されています。
このように、祖先では機能していたと考えられるものの、現在はタンパク質を正常に作れない遺伝子を偽遺伝子と呼びます。==猫の Tas1r2 は配列上、機能しない偽遺伝子と判断されました==。
📄 論文を深く読む
この回では、BACライブラリーとPCRによる配列取得、エクソン3の247塩基対欠失、フレームシフト、複数の終止コドンを確認しました。配列比較の数値や図の詳細は論文要約ページで整理しています。
今日からできること
- 遺伝子の「欠失」を、部品が一つ減っただけと考えず読み枠への影響まで見る
- 偽遺伝子という言葉を「存在しない遺伝子」と言い換えない
まとめ会話
マロン学長「247塩基対が抜けて読み枠がずれ、途中で止まる合図も複数あったんだね。」 いち教授「そうなんだ。配列を見ると、正常なT1R2を作りにくい理由が見えてくるよ。」 マロン学長「設計図だけで本当に作られないと分かるの?」 いち教授「良い疑問だね。次はRNAとタンパク質を実際に探した結果を見よう。」
次回予告
第3回は、RT-PCR、組織上のRNA、抗体という3つの発現確認を読みます。
参考文献
Li X, et al. Pseudogenization of a Sweet-Receptor Gene Accounts for Cats’ Indifference toward Sugar. PLoS Genetics. 2005;1(1):e3. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.0010003