猫に慣れていれば、接し方も上手?
飼育経験の長さと、猫が触れ合いを選べる接し方を別の指標として考えます。

導入会話
マロン学長「猫とずっと暮らしてきた人なら、触り方も自然に上手なのかな?」
いち教授「マロン、経験と、その瞬間の猫が選べる接し方は分けて考えよう。実際の行動を撮影した研究があるよ。」
この回でわかること
- 研究したのは人の経験・性格と接し方の関連
- 飼い主と愛猫の関係を調べた研究ではない
- 「上手」の中身を測定方法に戻って考える
人の個人差は動物にどう関わるか
論文の序論には、人の性格、属性、態度、経験が、接する伴侶動物の行動や福祉に関わり得ることが書かれています。犬の研究では、飼い主の性別や抑うつと罰を使った訓練、協調性と口頭での訂正、神経症傾向や開放性と犬への接し方の関連が報告されてきました。しかし、それが日常の自由な触れ合いや猫にも当てはまるかは分かっていませんでした。
猫に触れることは人にとって心地よい経験になり得ますが、猫はもともと強い接触を好む種とは限らず、触れられ方に好みがあります。人との接触中に猫が攻撃的になるなら、人が猫の行動や適切な接し方を十分に理解していない可能性を示す、と著者らは述べています。先行する教育介入の研究では、猫が接触を始めたり終えたりできる余地を与え、行動と快適さに注意を向けた接し方で、猫の親和的な行動が増え、人への攻撃が減ったという結果がありました。この研究は、その介入の前の「ふだんの接し方」がどんな構造で、誰によってどう違うかを問っています。
経験があることと、猫に選択肢があること
猫と暮らした年数が長い人は、抱っこや撫で方に自信があるかもしれません。でも、初対面の猫が自分から近づけるか、触られたくなければ離れられるかは別の話です。人がしたいことより、猫が今どう応じているかを確認する必要があります。
Finkaら(2022)は英国の保護施設で、人の猫飼育歴、動物と関わる仕事・ボランティア経験、自己評価、性格質問票と、初対面の猫への行動を比較しました。人の経験の長さだけで接し方の質を決めないための研究として読めます。
「飼い主の性格と愛猫の相性」ではない
参加者は自分の飼い猫に接したのではありません。保護施設で、人に慣れた初対面の猫と短く接した場面です。猫と飼い主が似た性格になるか、どの家族を猫が好きか、誰と寝るかを測っていません。
研究でいう望ましい接し方は、研究者による評価と行動記録に基づきます。猫の長期的な幸福や、その人への好意を直接測った点数ではありません。ここを混同すると「経験者は嫌われる」など、原著にない結論へ飛んでしまいます。
譲渡の現場での問い
著者らが研究の動機として挙げるのは、譲渡施設の実務です。施設では応募者の属性によって優先したり除外したりすることがありますが、その特徴が実際に動物へ利点をもたらすかの根拠は薄い、と書かれています。動物を飼った経験の多い人を優先しても、行動上の理由による返還がかえって多かった事例もあるとされます。「経験があるから安心」という前提そのものを、行動の観察で確かめようとした研究です。
マロン学長「経験がある人の方が、猫を返してしまうこともあるの?」
いち教授「そういう事例があった、と論文は書いている。だから経験の長さだけで判断しない、という姿勢につながるんだ。」
今日からできること
触る前に、猫が自分から近づいたか、離れられる位置にいるかを見てみましょう。反応が変わったら手を止める。これは研究結果の効果を保証する方法ではなく、猫の選択を見落とさないための観察です。
まとめ会話
マロン学長「長く飼っていることと、その猫が今どうしたいかは別なんだね。」
いち教授「そう。次は、どんな人と猫の場面を撮ったのか見よう。」
次回予告
初対面の保護猫との5分間。分析に入った動画の条件を確認します。
参考文献
Finka LR, et al. (2022). Scientific Reports, 12, 12128. https://doi.org/10.1038/s41598-022-15194-7