0.802と0.794は製品効果ではない
30世帯の概念案評価を、実用品の効果・安全性・猫の好みへ変換せず読みます。

導入会話
マロン学長「参照案0.520より0.802なら、かなり効果があるの?」
はち助教授「これは実物を使った効果量ではなく、概念案への記述的な受容指標なの。何を評価したのかを見ましょう。」
この回でわかること
- 二つの概念案の中身
- 30世帯の評価と数字の意味
- 面積や時間の数字が理論値であること
ソファ案と仕事机案
第3段階では、観察と要求評価をもとに二つの概念案が作られました。Scheme Aはリビング用のソファシステムです。ソファ本体に、横の跳び台、爪とぎ柱、上部の見張り台、半分囲われた猫用ベッド、収納をまとめ、猫が登る・巡回する・爪をとぐ・休むという一続きの道を作る設計です。ひじ掛けで起きていた爪とぎを、取り替えられる爪とぎ面へ移す狙いがあります。
Scheme Bは折り畳み式の仕事・学習用システムです。畳むと細長い棚、広げると机になり、脚部は半分囲われた空洞で、腰掛けを引き出すと猫が通り抜け、休み、爪をとぐ場所になります。腰掛けは人の椅子と猫のベッドを兼ねる設計です。
どちらも図面と模型の段階で、実物の試作品を家庭で使った研究ではありません。
30世帯の評価
30世帯は、一般家具を組み合わせた参照案、リビング用Scheme A、仕事・学習用Scheme Bを、六つの指標で5段階評価しました。統合受容指標は参照0.520、A 0.802、B 0.794でした。
AとBは用途場面が異なり、対応する効果量や有意差検定もありません。参照案も複数の一般家具を一つにまとめた比較対象です。「AがBより優れている」「参照案より○%良い」といった順位づけや効果の大きさは、この数字からは出せません。評価しているのは、概念案を見た人の印象です。
マロン学長「0.8と0.5は差が大きく見えるけど、テストで比べたわけじゃないんだね。」
はち助教授「そう。図面を見て『良さそう』と答えた人の割合に近い数字で、使ってみた結果ではないの。」
面積の数字も理論値
著者らは、Scheme Aの占有面積を2.85平方メートル、市販の3点セットの平均を3.15平方メートルとして、約9.4%の差を示しています。Scheme Bは展開時1.18、折り畳み時0.54平方メートルで、参照家具1.55平方メートルに対して23.9%と65.2%の差としています。
これらは設計図から計算した理論値で、実際の住戸で計測した削減効果ではありません。取り替え部品の交換周期や清掃時間についても、著者らは「設計段階の暫定的な見積もり」と明記し、実際の摩耗試験は行っていないと書いています。
著者らはScheme Aについて、猫の登る・休む・収納の機能を一つにまとめることで別々の家具を置く面積を減らせること、爪とぎ面を取り替えられることで本体を長く使えること、掃除の手間を減らせること、人と猫の共有体験を良くすること、という四つの狙いを挙げています。いずれも設計上の意図で、実現できたかどうかはこれからの検証に委ねられています。
測っていないこと
実物試作、猫の利用、強度、耐久、清掃時間を測った研究でもありません。著者らは今後の課題として、実物の試作品を作り、家庭で長期に使ってもらい、占有面積、動線の交差、作業の中断、清掃時間、爪とぎの場所、部品の摩耗を実測すること、ビデオで猫の行動を記録して指定した場所を使い続けるかを確かめることを挙げています。
概念への好意的な評価を、製品の有効性、安全性、猫の好みへ変換しません。
今日からできること
- 図面・模型・試作品・実用品のどの段階か確認する
- 満足度と実測性能を分ける
- 面積や時間が計測値か理論値かを見る
まとめ会話
マロン学長「良さそうな設計、までで止まっている研究なんだね。」
はち助教授「ええ。だから製品を選ぶ根拠にはならないの。最後に、家庭で持ち帰れる観察の枠をまとめましょう。」
次回予告
家具を買う前に、家庭で作れる人猫動線メモをまとめます。