猫はしつけできない?——実験が答えた範囲
猫が合図を学べるかと、人の都合どおりに行動するかを分けて研究の問いを確認します。

導入会話
マロン学長「犬はおすわりできるのに、猫は『しつけできない』って聞くよ?」
いち教授「マロン、まず『学べない』のか『人の望むときに必ずしない』のかを分けよう。猫の合図学習を調べた実験があるんだ。」
この回でわかること
- この研究が問うたのは四つの合図行動
- 行動の得点と猫の福祉は別の結果
- 『しつけできない』を一言で決めない理由
なぜ保護施設の猫で調べたのか
論文の序論は、執筆当時の米国の背景から始まります。飼い猫は約8,580万匹で犬より多く、飼い主の56%は猫を家族と考え、46%は保護施設や保護団体から迎えていました。一方で、当時の推計では年間約320万匹の猫が施設に入り、その多くが安楽死されるとされていました。著者らは、身体的な世話の基準を満たした施設でも、猫が自分で身体活動や環境を選ぶ機会は乏しくなり得ると述べています。
外で暮らしていた猫にも家で飼われていた猫にも、施設は新しく制限された環境で、ストレスになり得ます。食べ物を得るために新しい行動を学ぶ機会は、環境エンリッチメントの一つと考えられており、著者らはそこにクリッカートレーニングの可能性を見ました。猫の認知の研究はまだ少ない、という指摘もあります。
猫の「学べる」をどう見た?
Koganら(2017)は、米国の保護施設にいた猫に、特定の合図が出たときの行動を教えられるか調べました。対象の行動は、指や棒に鼻で触れるターゲット、身体を一周させる回転、座る、前足で人の手に触れるハイタッチの四つです。合図を見聞きしたあとに、どの程度完成形へ近づいたかを点数にしました。
ここでいう「学べる」は、人が決めた四つの動きを合図で示せたか、という狭い意味です。人間との生活のルールを全部理解したか、困る行動をやめたか、飼い主に従順になったかは調べていません。一つの学習課題の結果を、猫の性格や『しつけ全般』の判定にしないことが出発点です。
クリック音は何のため?
研究では、望む動きが出た瞬間にクリック音を鳴らし、その後で通常は食べ物を与えました。音は「今の動きのあとに報酬が来る」と知らせる目印です。猫が望まない行動をしたときに、大きな音で驚かせる道具ではありません。研究が用いたのは報酬に結びつく音であり、罰や威嚇ではないのです。
ただし、この実験は音のない練習群を設けていません。猫が後でよくできたとしても、それがクリック音に固有の効果か、報酬、人との関わり、時間がたって環境に慣れたことによるものかは分かりません。研究の名前だけを読んで「クリック音が必須」とは結論できません。
福祉や譲渡は別の問い
論文の序論と考察は、保護施設でのストレスや譲渡への可能性を広く議論しています。けれど、この研究が前後で測った主な結果は四行動の得点です。ストレスの測定値、譲渡された割合、家庭での暮らしの変化は報告されていません。学習の機会は大切な話題ですが、効果が証明された指標と、今後確かめるべき期待は分けて読みます。
今日からできること
- 「覚えない」と決める前に、猫が興味を示す遊びや短い合図に応じる場面を観察する。
- 嫌がる・離れるときは無理に続けず、猫が参加できる状態かを先に見る。
まとめ会話
マロン学長「猫も合図を学べるか調べたんだね。でも『何でもしつけられる』研究じゃない。」
いち教授「その通り。次は、どんな猫がどんな条件で練習したか見ていこう。」
次回予告
完了した100匹と、5分×15回の中身を確認します。
参考文献
Kogan L, et al. (2017). Animals, 7(10), 73. https://doi.org/10.3390/ani7100073