論文要約:猫のフード選び、ネット情報だけで決めていい?
Hunter et al. (2025). Pets, 2(2), 20

論文の概要
この論文は、英国の犬猫飼い主がどのようなフードを選び、どのように与え、どこから栄養情報を得ているかを調べたオンライン質問票研究です。対象は、犬または猫の食事を主に決めている18歳以上の英国在住者でした。
有効回答は520件で、対象になったペットは犬572匹、猫110匹、合計682匹です。猫だけの研究ではありませんが、猫のフードタイプ、給餌回数、自由採食、標準ボウル、フード表示、ネット情報の使われ方を見る材料になります。
猫では、ウェットフードとドライフードの併用が55.0%と多く、ドライのみは18.3%、生食は4.6%でした。1日2回の給餌は52.34%、自由採食は25.23%、標準的なボウルでの給餌は83.9%でした。
ただし、この数字は「猫のフード選びの正解」ではありません。英国のオンライン調査であり、SNSの犬猫関連グループから募集され、回答者の大半は女性でした。猫の回答数も犬よりかなり少ないため、日本の家庭にそのまま当てはめるより、フード選びで何を確認するかを考える材料として読みます。
研究デザイン
研究チームは、Qualtricsを使って29問のオンライン質問票を作成しました。質問には、飼い主の属性、ペットの種類・年齢・性別、与えているフード、給餌方法、フードを選ぶ理由、栄養情報の入手先などが含まれています。
参加条件は、英国在住で18歳以上、犬または猫の食事を主に決めていることでした。ただし、処方食を食べている犬猫は対象外です。調査リンクは、Facebookの犬猫関連グループで2022年9月2日から11月2日まで共有されました。
回答者には偏りがあります。520人中486人、つまり93.5%が女性で、115人、22.1%は獣医療関係者、ドッグトレーナー、ペットシッター、行動関連職など、動物業界で働く人でした。論文でも、SNS募集や猫回答数の少なさによる代表性の限界が述べられています。
主な発見
1. 猫ではウェット+ドライ併用が多かった
猫のフードタイプでは、ウェットとドライの併用が60/109、55.0%でした。ドライのみは20/109、18.3%です。
この結果だけを見ると「併用がよい」と読みたくなりますが、論文は併用を推奨しているわけではありません。あくまで英国調査で、実際にそういう家庭が多かったという結果です。
日常では、猫の年齢、体重、飲水量、歯や口の状態、便の様子、食べムラ、続けやすさを合わせて考える必要があります。ウェット、ドライ、併用のどれかを、数字だけで正解にしない方が安全です。
2. 自由採食も一定数あった
猫では、1日2回の給餌が56/107、52.34%でした。一方で、自由採食も27/107、25.23%ありました。犬と比べると、猫では自由採食がかなり多い傾向です。
猫は少量を何度も食べる傾向があるため、自由採食が生活に合う場合もあります。ただし、体重管理や食欲の変化を見逃しやすい面もあります。
特に多頭飼育では、誰がどれだけ食べたかが見えにくくなります。自由採食にする場合でも、体重、食べ残し、便、吐き戻し、食べる時間帯をざっくり観察しておく方が安心です。
3. 標準的なボウルが多数派だった
給餌方法では、猫の83.9%が標準的なボウルで食べていました。フードパズルや隠し置きなど、採食行動を引き出す方法は、この調査では多数派ではありません。
ここも「標準ボウルが正しい」という意味ではありません。多数派かどうかと、その猫に合っているかは別の話です。
フードパズルは、猫によっては退屈対策や活動量アップに役立つことがあります。一方で、シニア猫、痛みがある猫、食欲が落ちている猫、警戒心が強い猫では、食べにくさがストレスになることもあります。試すなら、普段の食事を邪魔しない少量から始めるのが現実的です。
4. 原材料や表示ワードは重視されていた
フード選びの理由では、犬猫全体で65.48%が原材料を重要な要素として挙げました。また、グレインフリーを求めた飼い主は全体で40.24%、猫では27.10%でした。ナチュラル表示を求めた飼い主は全体で39.34%、猫では26.17%でした。
原材料を見ること自体は大切です。ただし、原材料リストだけでは、栄養バランス、消化性、カロリー、猫の病歴、生活ステージに合っているかまでは判断できません。
グレインフリー、ナチュラル、ヒューマングレードといった言葉も、安心感を与えやすい一方で、猫に必要な栄養をそのまま保証する言葉ではありません。人間の食の価値観を、そのまま猫の健康判断に置き換えないことが大切です。
5. 栄養情報はオンラインに偏っていた
栄養情報源として、犬猫全体ではウェブサイトが59.58%、獣医師が28.89%でした。猫では、表中の獣医師相談は40/105、38.10%です。
オンライン情報は入口として便利です。商品の比較、表示の確認、一般的な知識の整理には役立ちます。ただし、ネット情報だけで療法食を始める、食欲低下を様子見し続ける、生食や手作り食に切り替える、といった判断は危険です。
論文でも、インターネット上の情報が不確かだったり、誤情報につながったりする懸念が述べられています。体調が絡む判断では、情報収集と診療相談を分ける必要があります。
この研究で断定できないこと
この研究は、英国のオンライン質問票調査です。猫の食事を実験的に比較した研究ではなく、どのフードが健康に良いかを検証した研究でもありません。
そのため、次のような読み方は避けた方が安全です。
- ウェット+ドライ併用が一番よい、と決める
- 1日2回が猫の正解、と決める
- 自由採食は良い/悪いと一律に判断する
- 標準ボウルが多数派だから工夫はいらない、と読む
- グレインフリーやナチュラル表示を、栄養的な優位性と同じ意味で扱う
- ネットで多く見かける情報を、医学的な判断に置き換える
また、処方食を食べている犬猫は対象外です。腎臓病、尿路疾患、糖尿病、消化器症状、アレルギー疑い、肥満管理などがある猫では、この調査の数字よりも、診断や治療方針に合わせた食事管理が優先されます。
数値で見るポイント
| 指標 | 数値 | 備考 |
|---|---|---|
| 有効回答 | 520件 | 英国の犬猫飼い主 |
| 対象ペット | 682匹 | 犬572匹、猫110匹 |
| 回答者の女性割合 | 93.5% | 486/520 |
| 動物業界で働く回答者 | 22.1% | 115/520 |
| 猫のウェット+ドライ併用 | 55.0% | 60/109 |
| 猫のドライのみ | 18.3% | 20/109 |
| 猫の生食 | 4.6% | 5/109 |
| 猫の1日2回給餌 | 52.34% | 56/107 |
| 猫の自由採食 | 25.23% | 27/107 |
| 猫の標準ボウル給餌 | 83.9% | 94/112 |
| 原材料を重要視 | 65.48% | 犬猫全体 |
| グレインフリーを求めた猫飼い主 | 27.10% | 29/107 |
| ナチュラル表示を求めた猫飼い主 | 26.17% | 28/107 |
| ウェブサイトを栄養情報源に使用 | 59.58% | 犬猫全体 |
| 獣医師を栄養情報源に使用 | 28.89% | 犬猫全体 |
この表は、フード選びの正解表ではありません。どの数字も「そういう傾向があった」という観察結果として読みます。
暮らしへのヒント
この論文を猫との暮らしに活かすなら、まずフード選びを3つに分けて考えると整理しやすくなります。
1つ目は、猫の状態です。年齢、体重、食欲、飲水量、便、吐き戻し、毛づや、活動量、既往歴を見ます。ここに変化があるなら、表示ワードよりも体調確認が先です。
2つ目は、フードそのものです。総合栄養食か、ライフステージに合っているか、カロリーは合うか、食べ続けられるか、保存しやすいかを見ます。原材料は大切ですが、それだけで判断しない方が安全です。
3つ目は、情報源です。ネット検索は入口に使えますが、療法食、生食、手作り食、急な食欲低下、体重変化、嘔吐や下痢がある場合は、獣医師に相談する領域です。
特に、食べない日が続く、急に痩せた、急に水を飲む量が増えた、吐く回数が増えた、排尿や便の様子が変わった場合は、「フードが合わないのかな」で止めないでください。食事の問題に見えて、病気や痛みが隠れていることがあります。
猫のごはん選びは、流行の言葉を当てる作業ではありません。その猫が、今の体で、毎日無理なく食べられているかを見続ける作業です。
猫のフード選び調査——ウェット・ドライ・ネット情報との付き合い方
英国の犬猫飼い主520人を対象にしたオンライン質問票研究をもとに、猫のフード選び、ウェットとドライの使い分け、給餌回数、標準ボウルやフードパズル、グレインフリーやナチュラル表示、ネット情報との付き合い方を全5回で整理します。英国調査を日本の正解にせず、猫ごとの体調・体重・暮らしに合わせて相談する視点を扱います。