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ネコフリークス大学Neko Freaks University
ごはん掲載 2026.10.02

論文要約:猫はなぜ甘味に反応しにくい?——T1R2遺伝子を調べた研究

Li et al. (2005). PLoS Genetics

読了 約5分中級2005年発表原文 DOI →

論文の概要

Liらの2005年の研究は、猫の甘味受容体に必要なT1R2が作られないことを、遺伝子配列、RNA、タンパク質の3段階で確かめました。

甘味へ反応しにくい有力な分子基盤を示しましたが、猫の主観的な感覚を直接測った研究ではありません。

研究デザイン

げっ歯類や霊長類の主な甘味受容体は、T1R2とT1R3という2つのタンパク質が組になってできます。どちらか一方だけでは、同じ受容体を作れません。

研究チームは、対応する遺伝子 Tas1r2 と Tas1r3 を猫から取り出し、犬、人、マウス、ラットの配列と比べました。さらに、猫の味蕾でRNAとタンパク質が作られているかを、RT-PCR、in situハイブリダイゼーション、免疫組織化学で調べました。最初のゲノムライブラリーは1匹由来でしたが、別の健康な成猫6匹、トラ1頭、チーター1頭を追加し、変異の周辺を配列決定しています。この研究は家庭猫へ甘味刺激を提示して反応を比べる新規の行動実験ではありません。

主な発見

1. T1R3側は発現していた

猫の Tas1r3 は、他種の機能的な遺伝子とよく似ていました。味覚組織からRNAが検出され、in situハイブリダイゼーションでは味蕾内の発現が確認されました。免疫組織化学でもT1R3様タンパク質が見つかりました。

T1R3はT1R1と組み、アミノ酸に関わる受容体にもなると考えられています。猫が甘味以外の味に反応できることと、T1R3側が機能している可能性は両立します。

2. T1R2側には247塩基対の欠失があった

猫の Tas1r2 には、エクソン3の247塩基対欠失がありました。この欠失でDNAの読み枠がずれ、エクソン4に早い終止コドンが生じます。さらにエクソン4と6には別の終止コドンもありました。

RT-PCRでは70を超えるプライマーを使っても Tas1r2 のRNAを検出できませんでした。組織上でRNAを探す方法でも、抗体でT1R2タンパク質を探す方法でも検出されませんでした。配列上の壊れ方だけでなく、RNAとタンパク質が見つからないことまで確認した点が、この研究の強みです。

3. 6匹の家猫と大型ネコ科で追加確認された

全個体に同じ247塩基対欠失とエクソン4の終止コドンが見つかりました。ただしエクソン6の一部には家猫内の違いがありました。

この結果は、最初の1匹だけの変化ではないことを支持します。対象はネコ科3種だけなので、ネコ科すべての種で完全に同じだとまでは言えません。

4. 進化の物語は前後関係に注意が必要

著者らは、猫の祖先が厳格な肉食へ向かう中で、甘味受容体の機能を保つ自然選択の圧力が弱まった可能性を論じています。

一方で論文は、Tas1r2 の変化が食性変化より先だったか、後だったかを決められないとも明記しています。「甘味が不要になったから遺伝子を捨てた」という目的のある変化としては読めません。

この研究で断定できないこと

  • 猫の主観的な甘さが完全にゼロであること
  • 甘い食品へ近づく個体の行動理由
  • 匂い、脂肪、食感、温度、経験の影響
  • 甘い食品や甘味料の安全性・栄養効果
  • 猫の食いつきを改善する方法
  • ネコ科全種の配列が同じであること
  • 遺伝子変化と食性変化のどちらが先か

なお、著者のうち1人はMarsのMasterfoods部門の従業員、1人はWALTHAM Centreの諮問委員でした。猫の受容体利用に関する特許出願と発明者も開示されています。研究資金とあわせ、参考情報として見ておくとよいです。

数字で見るポイント

  • 247塩基対: Tas1r2 エクソン3で確認された欠失
  • 355アミノ酸: 欠失後に仮に翻訳された場合の予測長(最初の315アミノ酸のみ他種と類似)
  • 70超: Tas1r2 RNAを探すRT-PCRで用いたプライマー数
  • 有郭乳頭10個・茸状乳頭4個: 免疫組織化学で確認した乳頭
  • 家猫6匹・トラ1頭・チーター1頭: 欠失・終止コドン周辺の追加配列確認の対象
  • 3種: 本研究で同様の変化を確認したネコ科の種数

暮らしへのヒント

猫が甘い食品へ近づく姿を見ても、甘味だけを理由にしません。この研究が測っていない匂い、脂肪、食感、経験などを分けて考えます。

反応を確かめるために砂糖水や甘い食品を与える必要はありません。研究の持ち帰りは味覚の違いを知ることであって、家庭でテストすることではありません。

よくある質問

Q. 猫は甘味を全く感じないのですか?

この研究はT1R2側の遺伝子変化と発現の未検出を示しました。猫の主観的な感覚が完全にゼロだと直接測った研究ではありません。

Q. 甘い食品へ近づく猫は例外ですか?

脂肪、乳製品、におい、食感、経験など別の手がかりがあり得ます。日常の疑問は猫は甘いものが好き?甘味を感じにくい理由で整理しています。

Q. 甘い物を与えて反応を試してよいですか?

この研究は家庭での再現テストや食品の安全性を扱っていません。砂糖水や甘い食品を試すことは勧めません。

Q. 遺伝子変化が肉食の原因ですか?

食性と遺伝子変化のどちらが先だったかは本研究だけでは決まりません。進化の順序を断定しません。

参考文献

Li X, et al. Pseudogenization of a Sweet-Receptor Gene Accounts for Cats’ Indifference toward Sugar. PLoS Genetics. 2005;1(1):e3. https://doi.org/10.1371/journal.pgen.0010003

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