論文要約:猫は魚味のウェットフードが好き?食いつき研究を読む
Rosita et al. (2025). IOP Conference Series: Earth and Environmental Science, 1484(1), 012031

論文の概要
この論文は、インドネシアで作られた鶏肉ベースのローカルウェットフードについて、猫の食べ方と嗜好性を調べた研究です。比較されたのは、対照食、鶏味、魚味の3種類でした。
研究では、1要因のランダム化群設計が使われ、3つの処理にそれぞれ7反復が設定されました。フードは1日2回、60日間与えられ、嗜好性スコア、乾物摂取量、タンパク質摂取量、体重変化、消化器症状などが見られています。
結果として、魚味の嗜好性スコアは4.88で最も高く、鶏味は4.71、対照食は4.33でした。乾物摂取量も魚味85.35g、鶏味70.77g、対照食38.87gの順でした。
ただし、この研究を「猫には魚味が正解」と読むのは危険です。対照食、鶏味、魚味では、味だけでなくタンパク質やタウリンなどの栄養成分も違っていました。食いつきの差には、香りや味だけでなく、フード全体の設計が関わっている可能性があります。
研究デザイン
研究の目的は、ローカル素材を使った鶏肉ベースのウェットフードが、猫に受け入れられるかを調べることでした。背景には、インドネシアのペットフード市場で輸入品の存在感が大きく、地域素材を使った代替品開発が必要とされている事情があります。
処理は次の3種類です。
- 対照食:市販の猫用フード
- 鶏味:鶏肉由来のタンパク源に鶏エッセンスを加えたフード
- 魚味:鶏肉由来のタンパク源に魚の香りを加えたフード
嗜好性の評価には、単一ボウルテストをもとにしたスコアリングが使われています。これは、猫が新しいフードをどの程度受け入れるかを観察する方法です。
主な発見
1. 魚味の嗜好性スコアが最も高かった
平均嗜好性スコアは、対照食4.33、鶏味4.71、魚味4.88でした。論文では、魚味がこの研究の条件では最も好まれたと説明されています。
ただし、この結果は「すべての猫は魚味を選ぶ」という意味ではありません。猫の食の好みは、過去に食べてきたもの、香り、温度、食感、体調、空腹度、個体差によって変わります。
家庭では、魚味を選べば解決と考えるより、どのフードなら安定して食べ、体重や便、吐き戻しがどう変わるかを見る方が実用的です。
2. 食べた量も魚味が多かった
乾物摂取量は、魚味85.35g、鶏味70.77g、対照食38.87gでした。タンパク質摂取量も同じ傾向で、魚味が最も高く、次に鶏味、対照食の順でした。
食べる量が増えることは、食欲が落ちている猫では助けになる場合があります。一方で、健康な猫や体重管理が必要な猫では、食べすぎや体重増加につながることがあります。
「食べてくれる」は大事です。でも「よく食べる」だけで、フードが合っているとは言い切れません。
3. 栄養成分も処理間で違っていた
この研究では、味だけでなく栄養成分にも差がありました。タンパク質含有量は、対照食8.02%、鶏味17.43%、魚味18.08%でした。タウリンは対照食0ppm、鶏味2671ppm、魚味3340ppmでした。
論文では、猫はタウリンを食事から摂る必要があること、ウェットフードでは乾物あたり2000〜2500mg/kg程度のタウリンが必要とされることも説明されています。
つまり、この研究で対照食の摂取量や体重が低く出た理由を、単純に「味が弱かったから」だけで説明するのは避けた方がよいです。嗜好性、栄養成分、摂取量がまとめて影響している可能性があります。
4. 体重は鶏味・魚味で増え、対照食で減った
研究開始時の体重は、対照食3.6kg、鶏味3.74kg、魚味3.86kgでした。2か月後には、対照食は3.00kgまで減り、鶏味は4.47kg、魚味は4.41kgまで増えています。
論文では、鶏味・魚味の体重増加は、フードの受け入れやすさと栄養要求をより満たしたことを示すものとして扱われています。
ただし、家庭では体重増加をそのまま良いことと読まない方が安全です。痩せている猫には望ましい変化でも、すでに太り気味の猫では肥満リスクになります。体重は、体型、筋肉量、年齢、持病と合わせて見ます。
5. 60日間で下痢は観察されなかった
研究期間中、下痢などの消化器トラブルは観察されなかったと報告されています。
これは研究条件下での大切な観察結果ですが、「どの猫にも安全」と保証するものではありません。嘔吐、便のゆるさ、便秘、皮膚症状、かゆみ、食欲低下、体重変化は、家庭では個別に確認する必要があります。
この研究で断定できないこと
この研究は、特定のローカルウェットフード条件で、3種類の処理を比較した研究です。すべての猫、すべてのウェットフード、すべての魚味・鶏味フードに一般化することはできません。
そのため、次のような読み方は避けた方が安全です。
- 猫には魚味が一番よい、と決める
- 食いつきがよければ健康によいフードだと判断する
- 体重が増えたから健康効果があると断定する
- 60日間下痢がなかったから、全猫に安全だと読む
- 対照食を、一般的な市販フード全体の代表として扱う
- 療法食や持病のある猫の食事を、嗜好性だけで変える
特に、腎臓病、尿路疾患、糖尿病、肥満、消化器症状、食物アレルギー疑いがある猫では、食いつきより治療方針や栄養管理が優先されます。
数値で見るポイント
| 指標 | 対照食 | 鶏味 | 魚味 |
|---|---|---|---|
| 嗜好性スコア | 4.33 | 4.71 | 4.88 |
| 乾物摂取量 | 38.87 g | 70.77 g | 85.35 g |
| タンパク質含有量 | 8.02% | 17.43% | 18.08% |
| タウリン | 0 ppm | 2671 ppm | 3340 ppm |
| アラキドン酸含有量 | 0.030% | 0.020% | 0.028% |
| 開始時体重 | 3.60 kg | 3.74 kg | 3.86 kg |
| 2か月後体重 | 3.00 kg | 4.47 kg | 4.41 kg |
| 消化器トラブル | 下痢なし | 下痢なし | 下痢なし |
この表のポイントは、魚味が高かったことだけではありません。嗜好性、摂取量、栄養成分、体重変化が一緒に動いているため、味だけを切り出して判断しないことです。
暮らしへのヒント
この論文を家庭のフード選びに活かすなら、「食べる」と「合っている」を分けて見ます。
食いつきは大切です。食べないフードは、どれだけ成分がよく見えても日常では続きません。一方で、よく食べるフードでも、体重が増えすぎる、便がゆるくなる、吐き戻しが増える、皮膚をかゆがる、飲水や排尿が変わるなら、その猫には合っていない可能性があります。
新しいフードを試すときは、味だけでなく、総合栄養食か、ライフステージに合うか、カロリーは合うか、便と体重がどう変わるかを見ます。切り替えは急がず、食欲、便、吐き戻し、体重を数日から数週間の単位で記録すると判断しやすくなります。
療法食を食べている猫、持病がある猫、肥満気味の猫、急に食欲が落ちた猫では、嗜好性だけでフードを変えないでください。食べることは入口ですが、猫の健康を支えるには、食いつきと栄養設計の両方を見る必要があります。
猫のウェットフード嗜好性研究——食いつきと栄養設計を分けて考える
Rositaら(2025)の研究をもとに、魚味・鶏味・対照食の嗜好性スコア、乾物摂取量、体重変化、消化器症状の観察を整理します。猫がよく食べることの大切さと、嗜好性だけでフードを決めない注意点を、家庭でのフード選びに落とし込みます。