論文要約:猫を家族・子ども・親友と思うと、暮らしは変わる?
Bouma et al. (2021). International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(1), 193

論文の概要
この論文は、猫の飼い主が自分の猫を「家族」「子ども」「親友」「ペット」のどれとして捉えているかを調べ、その見方と猫の暮らし方がどう関連するかを分析した研究です。
対象は、オランダの猫飼い主1803人です。研究では、飼い主本人の年齢や同居状況、猫が血統猫かどうか、飼い主が猫をどれくらい対等・依存的・支えになる存在として見ているか、そして猫の生活環境を質問紙で集めました。
ここでいう生活環境には、寝室に入れるか、外へ出られるか、外へ出る場合に自由に歩けるか、留守中に誰が世話をするか、多頭飼育かどうかが含まれます。
この研究の位置づけは、「猫を家族と思うのは良い」「子ども扱いは悪い」と判定することではありません。猫への愛情の呼び方が、実際の暮らしの選択と結びつく可能性を見た研究です。
論文の位置づけ
ネコフリークスでは、この論文を「猫との距離感」を見直すための材料として扱います。
猫を家族や子どものように感じること自体は、自然な愛情表現です。一方で、その見方が強くなるほど、人間側の安心や期待を猫に重ねやすくなることがあります。
たとえば、「うちの子だから守りたい」は外出を制限する方向へ、「親友だから一緒にいたい」は寝室アクセスや留守中の過ごし方へ、「ペットだから自由にさせたい」は外出の自由度へつながるかもしれません。
大事なのは呼び方ではなく、その呼び方の裏にある行動です。猫が選べる場所、離れられる距離、安心して休める環境が残っているかを確認するために読みたい研究です。
研究デザイン
研究は横断調査です。横断調査とは、ある時点で集めたデータから、項目同士の関連を調べる方法です。
そのため、この研究から「猫を子どもだと思ったから外出が減った」「外に出ない猫だから子どものように見えるようになった」といった因果関係は断定できません。
飼い主は、猫との関係について次の4つから最も近いものを選びました。
- ペット
- 家族の一員
- 子どものような存在
- 親友
さらに、猫についての7つの認識も尋ねられています。たとえば、猫が自分を支えてくれると思うか、猫が愛情と世話を自分に頼っていると思うか、猫が家族と同じ権利を持つと思うか、といった項目です。
分析では、年齢、同居状況、血統猫かどうか、猫への対等性・依存・支援の認識などが、関係カテゴリと関連するかが調べられました。
主な発見
猫を「家族の一員」と見る飼い主が最も多く、52%でした。次に「子ども」が27%、「ペット」が14%、「親友」が7%でした。
関係カテゴリと関連していた要因は、飼い主の年齢、同居状況、猫が血統猫かどうか、そして猫への対等性・依存・支援の認識でした。これらの要因は、関係カテゴリ選択の分散の46%を説明しました。
猫を「子ども」または「親友」と見る飼い主は、猫を忠実、共感的、家族と対等、愛情と世話を必要とする存在として見やすい傾向がありました。
生活環境にも違いがありました。猫を子どもまたは親友として見る飼い主では、猫が寝室に入れる割合が高く、自由な外出は少ない傾向がありました。子どもとして見られる猫は、多頭飼育家庭にいる割合も高めでした。
一方で、猫をペットとして見る飼い主では、外へ出られる割合や自由に歩ける割合が高く、寝室に入れる割合は低めでした。ただし、これは「ペット扱いだからケアが悪い」という意味ではありません。論文中でも、食事・水・トイレ・遊びや注意が確保されていれば、猫が慣れた自宅で世話されることには利点があると説明されています。
生活環境で見えた違い
寝室アクセスでは、全体の57%の猫が飼い主の寝室に入れていました。関係カテゴリ別では、子ども・親友として見られる猫では72%、家族では52%、ペットでは36%でした。
外出では、全体の65%の猫に屋外アクセスがありました。カテゴリ別では、ペットとして見られる猫で79%、家族で68%、親友で60%、子どもで52%でした。
外出できる猫のうち、自由にどこへでも行ける猫は全体で64%でした。ペットとして見られる猫では83%、家族では66%と高く、親友では47%、子どもでは46%でした。反対に、子ども・親友として見られる猫では、囲われた庭やキャティオのような制限された屋外スペースが多い傾向でした。
留守中の世話では、全体の71%が友人や近隣の人に猫の世話を頼んでいました。ペットとして見る飼い主ではこの割合が79%と高く、親友では62%、子どもでは67%でした。親友・子どもとして見る飼い主では、数日家を空けることがないと答えた人も多く見られました。
多頭飼育では、子どもとして見られる猫の家庭で平均頭数が2.4頭と最も高く、ペットでは1.9頭、家族・親友では2.3頭でした。単独飼育の割合はペット群で48%、子ども群で28%でした。
数字で見るポイント
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 解析対象 | 1803人 |
| 猫を家族の一員と見た飼い主 | 52% |
| 猫を子どものような存在と見た飼い主 | 27% |
| 猫をペットと見た飼い主 | 14% |
| 猫を親友と見た飼い主 | 7% |
| 関係カテゴリ選択の説明率 | 46% |
| 全体で寝室に入れる猫 | 57% |
| 子ども・親友群で寝室に入れる猫 | 72% |
| ペット群で寝室に入れる猫 | 36% |
| 全体で屋外アクセスがある猫 | 65% |
| ペット群で屋外アクセスがある猫 | 79% |
| 子ども群で屋外アクセスがある猫 | 52% |
| ペット群で自由に歩ける屋外アクセス | 83% |
| 子ども群で自由に歩ける屋外アクセス | 46% |
この研究で断定できないこと
この研究は、猫の生活環境と飼い主の関係認識の関連を調べたものです。猫の幸福度そのものを直接測定した研究ではありません。
そのため、次のような読み方は避けた方が安全です。
- 猫を家族と思う飼い主が必ず良い、と決める
- 猫をペットと思う飼い主が冷たい、と決める
- 猫を子どもと思うことが悪い、と単純化する
- 寝室に入れるほど猫が幸せ、と決める
- 外に出せるほど猫が幸せ、と決める
- オランダの外出文化を日本の暮らしへそのまま当てはめる
特に外出については注意が必要です。この論文はオランダの飼育文化を背景にしています。日本の一般家庭で同じように自由外出を勧める根拠にはなりません。
日本の暮らしに読み替えるなら、「外へ出すか」ではなく、「室内でも猫が選べる場所、逃げられる場所、退屈しにくい環境を作れているか」と考える方が現実的です。
暮らしへのヒント
この研究を日常に使うなら、まず自分が猫をどう呼んでいるかを責める必要はありません。「うちの子」「家族」「相棒」「ペット」。どれも、その人なりの大切さを表す言葉です。
ただし、その言葉が猫の選択肢を狭めていないかは見直せます。
寝室に入れるなら、猫が出入りを選べるか。寝室に入れないなら、別の静かな寝場所があるか。完全室内飼育なら、隠れ場所、上下運動、爪とぎ、遊び、窓辺の観察場所が足りているか。多頭飼育なら、食器、水、トイレ、休み場所を取り合わずに使えるか。
擬人化も、すべて悪いわけではありません。猫を大切に思う入口になります。一方で、猫は小さな人間ではありません。抱っこ、なでる時間、寝る場所、同居猫との距離などは、人間の理想ではなく、猫が落ち着いて選べるかで見直す必要があります。
この論文から持ち帰りたいのは、「どう呼ぶか」より「猫に選択肢が残っているか」です。愛情が強いほど、猫の自由や距離感も一緒に守る。そのバランスを見るための研究です。
猫との関係認識研究——家族・友人・子ども・ペットで暮らしは変わる?
オランダの猫飼い主1803人を対象にした調査をもとに、猫を家族・子ども・親友・ペットとして見る違いと、寝室アクセス、外出自由度、留守中の世話、多頭飼いとの関係を全5回で整理します。猫を大切に思う気持ちを肯定しながら、猫を人間扱いしすぎない距離感も考えます。