論文要約:30分と4時間の留守番後、猫の再会行動はどう変わった?
Eriksson et al. (2017). PLOS ONE, 12(10), e0185599 (2017)

飼い主が帰ってきたとき、猫がゴロゴロ音を出したり、ぐっと伸びたりする。その反応は、離れていた時間によって変わるのでしょうか。
2017年にPLOS ONEで公開された研究は、家庭で単独飼育されている猫14匹を対象に、飼い主が30分外出した日と4時間外出した日を比べました。同じ猫が両方の条件を経験するため、猫ごとの普段の違いをある程度抑えて比較できます。
研究デザイン
対象は雌9匹、雄5匹、年齢0.6〜15歳(平均6.2±1.1歳)の猫です。健康で、既知の行動上の問題がなく、飼い主と6か月以上暮らしている単独飼育の猫が選ばれました。
同じ猫が30分条件と4時間条件の両方を経験する反復測定です。各家庭で連続2日、ほぼ同じ時刻帯に実施し、どちらの条件を先にするかは偏らないよう調整しました。飼い主は出発前に30分以上在宅し、出発前5分、留守中の指定区間、帰宅後5分を3台のカメラで撮影し、休息、移動、遊び、鳴き声、ゴロゴロ音、伸び、身体接触などを記録しました。猫が視野外にいた時間は解析対象17.5時間の29.2%でした。
普段暮らす家庭で観察し、同じ猫が両条件を経験し、条件順を調整し、猫だけでなく飼い主の再会行動も記録し、給餌習慣の影響を考えた再解析も示している点が、この研究の設計上の強みです。
主な発見
留守中は明確な差が少ない
出発前5分、留守番の最初の5分、終了前の区間、両条件で対応させられる20〜25分には、明確な行動差が見つかりませんでした。
抽出した留守中区間をまとめると、横になる・休む行動の割合は4時間条件で0.58±0.08、30分条件で0.27±0.10となり、4時間条件で高くなりました(T=22.5、p=.02)。ただし、この数字はそのまま「長く留守にすると落ち着く」とは読めません。30分条件では出発直後の活動が観察時間全体に占める割合が大きく、4時間条件ならその後に休む時間が長く続くため、割合は猫の気持ちだけでなく、どの区間をどれだけ含めたかにも影響されます。
帰宅後5分は、ゴロゴロ音・伸び・飼い主の発話が増えた
帰宅後5分間では、4時間条件の方が猫のゴロゴロ音(T=10.5、p=.03)と伸び(T=17、p=.04)が多く観察されました。飼い主から猫への発話も多くなりました(T=33.5、p=.04)。
ただし、給餌時刻が影響した可能性のある3匹を除いて再解析すると、猫のゴロゴロ音(p=.03)と伸び(p=.05)の差は残った一方、飼い主の発話差は残りませんでした(p=.206)。また、猫から始める身体接触には条件差がありませんでした。飼い主の発話と猫のゴロゴロ音・伸びに明確な相関もありませんでした。
ゴロゴロ音は友好的な再会で出ることがありますが、感情を一つに決める指標ではありません。伸びも、長く休んだあとに体を動かしただけかもしれません。研究が捉えたのは行動の違いであり、「嬉しかった」という感情の直接測定ではありません。
この研究で断定できないこと
- 猫が4時間という時間の長さを理解したこと
- 猫が留守中に寂しさや分離不安を感じたこと
- ゴロゴロ音と伸びが嬉しさの証明であること
- 4時間までの留守番はどの猫にも安全であること
- 長く留守にすれば再会時の愛着が強まること
- 多頭飼育、持病のある猫、子猫、高齢猫にも同じ結果になること
対象は14匹で、各条件の観察は1回ずつです。映像の長さから条件が分かるため、観察者を条件について盲検化できておらず、多数の行動項目を調べた探索的な研究でもあります。健康な単独飼育猫が対象のため、多頭飼育、子猫、高齢猫、持病のある猫、分離関連の問題がある猫へそのまま広げることはできません。
数字で見るポイント
- 14匹(雌9・雄5): 対象。年齢0.6〜15歳、平均6.2±1.1歳
- 30分/4時間: 同じ猫が別の日に経験した2条件
- 0.58/0.27(p=.02): 留守中区間の休息割合(4時間条件/30分条件)。時間構成の違いに注意
- p=.03/p=.04: 帰宅後5分のゴロゴロ音・伸びの増加(4時間条件で多い)
- 29.2%: 猫がカメラの視野外にいた時間の割合(解析対象17.5時間中)
- p=.206: 給餌時刻の影響が疑われた3匹を除いた感度分析での、飼い主の発話差(有意差消失)
暮らしへのヒント
帰宅時に猫がゴロゴロ言う、伸びをする、寄ってくるといった様子を見たら、「長く待たせたから喜んでいる」と一つの感情に決めつけず、いつもと違う行動があるかを観察する材料として扱います。
この研究は30分と4時間という2つの条件を比べただけで、何時間までの留守番が安全かを示す研究ではありません。留守番時間を決める時は、この論文の数字ではなく、食事・飲水・トイレ・室温・持病の有無など、その猫の普段の状態から考えます。
急に留守番後の行動が変わった、体調が悪そうといった様子が続く場合は、留守番時間の長さのせいと決めず、獣医師へ相談してください。
よくある質問
Q. どの論文を使っていますか?
Eriksson、Keeling、Rehnが2017年に PLOS ONE へ発表した原著です。DOIは10.1371/journal.pone.0185599です。
Q. 対象は何匹ですか?
健康で既知の行動上の問題がない、単独飼育の猫14匹です。雌9匹、雄5匹、年齢0.6〜15歳でした。
Q. 研究は猫を30分群と4時間群に分けたのですか?
いいえ。同じ14匹が別の日に両方の条件を経験する対応のある比較です。条件の順番も調整されました。
Q. どの結果が統計的に異なりましたか?
抽出した留守中区間全体の休息割合、帰宅後のゴロゴロ音、伸び、飼い主の発話です。ただし給餌時刻の影響が疑われた3匹を除くと、飼い主の発話差は残りませんでした。
Q. 原著内の注意点はありますか?
伸びは挨拶だけでなく長い休息後に起きた可能性があり、留守中の休息割合は条件間で観察時間の構成が異なります。著者自身が複数の解釈を示しているため、単純な感情ラベルへ置き換えません。
参考文献
Eriksson M, Keeling LJ, Rehn T. Cats and owners interact more with each other after a longer duration of separation. PLOS ONE. 2017;12(10):e0185599. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0185599
飼い主が帰ると、猫はどう反応する?——14匹の30分・4時間比較
単独飼育の猫14匹を自宅で観察し、同じ猫の30分条件と4時間条件を比べた研究です。留守中の観察区間、帰宅後のゴロゴロ音と伸び、飼い主の発話、感度分析、小標本から言えないことを全5回で読みます。