論文要約:マタタビは猫に安全?——依存・血液指標・乾燥葉の研究
Uenoyama et al. (2023). iScience, 26(10), 107848

この論文を一言で
健康な研究施設猫を対象に、マタタビへ長時間接触した時の行動、反応直後の二つのストレス関連指標、長期曝露履歴と肝臓・腎臓関連指標、乾燥葉への反応を調べた研究です。
この研究条件では依存様の特徴や測定した血液指標の悪化を検出しませんでしたが、あらゆる猫・量・市販品の安全を保証する研究ではありません。
論文情報
- 著者:Reiko Uenoyama、Sae Ooka、Tamako Miyazaki、Hiroki Mizumoto、Toshio Nishikawa、Jane L. Hurst、Masao Miyazaki
- 掲載誌:iScience
- 公開:2023年9月7日
- 巻・論文番号:26, 107848
- DOI:10.1016/j.isci.2023.107848
- 種別:行動試験・血液指標・植物化学分析を組み合わせた実験研究
- ライセンス:Creative Commons Attribution 4.0 International(CC BY 4.0)
一つの実験で全部を調べたわけではない
研究は大きく四つの部分に分かれます。対象数も方法も別です。
- 10匹へマタタビ抽出物を4時間提示し、接触を自発的にやめるかを観察
- 14匹で、対照時とマタタビ反応直後のコルチゾール・グルコースを比較
- 9歳未満13匹の最長約3.2年の曝露履歴と、ALT・クレアチニン・SDMAを照合
- 植物部位・季節・乾燥によるイリドイドの違いを分析し、8匹で新鮮葉と7日乾燥葉の抽出物を比較
「安全性を18匹で3.2年間試した」のように、異なる部分を一つへまとめてはいけません。
4時間置いても、接触は中央値4%
10匹へ、湿重量100mgの乾燥葉に相当する抽出物をしみ込ませた濾紙4枚を、4時間連続で提示しました。なめる、かむ、顔や頭をこする、転がる行動を一つの反応として記録し、その後5分以上刺激へ接触しなければ反応区間の終了としました。
反応区間は1〜10回で、中央値は3回でした。抽出物への接触は観察時間の中央値4%、歩く、座る、毛づくろい、横になる、眠るなどの非接触行動が96%でした(p=0.002。観察された差が偶然だけで説明できるかを見る統計指標)。
2回目の反応があった9匹全頭で、2回目は1回目より短くなりました(p=0.004)。4枚すべてを使い切った猫もいませんでした。
猫は刺激へ戻ることもありましたが、接触し続けたわけではなく、自分で離れて反応時間も短くなりました。
著者らは、この行動パターンが研究で想定した物質依存の特徴とは一致しないと解釈しました。ただし、10匹・4時間・特定の抽出物という範囲です。長期の依存を網羅的に診断した結果ではありません。
反応直後に二つの指標は上がらなかった
14匹では、対照条件で採血し、3日後にマタタビ抽出物へ反応した直後の値と比べました。血清コルチゾールはp=0.503、グルコースはp=0.318で、どちらも差を検出しませんでした。
これは「反応直後に測った二つの指標に上昇を検出しなかった」という結果です。行動上の不快感、時間がたってからの変化、その他のストレス反応まで否定するものではありません。
長期記録で見たのは13匹・限られた血液指標
長期部分では、9歳未満の13匹から得た合計21回の血液検査を使いました。猫が研究施設でイリドイド刺激へ反応した回数は0〜56回、中央値26回。履歴は11〜1,176日、中央値569日でした。
ALTは27〜124 U/L、クレアチニンは0.60〜1.59 mg/dLで、研究対象では猫の基準範囲内でした。反応回数や経過日数とALT・クレアチニンとの関連も検出されず、SDMAも正常範囲と報告されました。
一方、これは猫を異なる量へ無作為に割り付けた長期毒性試験ではありません。他の実験で積み重なった曝露履歴を、後から血液検査と照合した観察です。
選ばれた肝臓・腎臓関連指標で悪化を示す結果がなかったことと、あらゆる毒性がないことは同じではありません。
乾燥すると総量だけでなく組成が変わる
8月に採取した緑葉を室内条件で乾燥すると、1日後に重量は新鮮時のおよそ4分の1になりました。7日後の総イリドイド濃度は新鮮葉のおよそ半分へ低下しましたが、ネペタラクトール以外のイリドイドが占める割合は3.9±0.8%から49.3±0.6%へ増えました。
8匹へ新鮮葉と7日乾燥葉の抽出物を同時に提示すると、乾燥葉への反応時間が長くなりました(正確確率p=0.008)。反応時間は、幸福度や安全性を直接表す指標ではありません。
研究用に抽出量をそろえた比較なので、家庭で7日干す方法や、市販の乾燥葉の品質を確かめたものでもありません。
この研究で分からないこと
- 子猫、高齢猫、妊娠中、持病や服薬のある猫でも同じか
- 家庭で使う粉末、スプレー、玩具、枝、実で同じか
- 一回量、頻度、何歳から使えるかという基準
- 大量に食べた時や、添加物・包装まで誤食した時の安全性
- 長期間の依存・ストレス・毒性を網羅的に否定できるか
- 反応が強いほど猫の福祉が高いか
暮らしへ持ち帰るなら
マタタビを使う時は、猫が自分で近づき、離れられる環境にします。残りを出しっぱなしにせず、反応中と反応後の歩き方、呼吸、吐き戻し、落ち着き方などを観察します。
この論文から家庭用の正確な量は決められません。初めて使う、体調や年齢に心配がある、既往歴や服薬がある場合は、製品表示を確認し、必要に応じて獣医師へ相談します。様子がおかしい時は「研究では問題なかったから」と待たず、使用をやめて相談してください。
透明性情報
研究は岩手大学の動物実験委員会の承認(A202124)を受けました。JSPS科研費、サントリー生命科学財団、武田科学振興財団、JSBBAの研究助成などの支援を受けています。著者らは、その他の競合する利益はないと申告しました。
原著
Uenoyama R, Ooka S, Miyazaki T, Mizumoto H, Nishikawa T, Hurst JL, Miyazaki M. Assessing the safety and suitability of using silver vine as an olfactory enrichment for cats. iScience. 2023;26(10):107848. https://doi.org/10.1016/j.isci.2023.107848
マタタビは猫にどう作用する?——依存・ストレス・乾燥葉を調べた研究
マタタビへの4時間の行動反応、反応直後と長期記録の血液指標、乾燥による成分変化を調べた2023年の研究を、全5回で限界とともに読みます。