脱走した猫は家の近くにいる?GPSの『89m』を捜索半径にしない理由
外に出る飼い猫72匹のGPS研究にある89mは、脱走猫の居場所を示す数字ではありません。普段の行動圏と捜索時の判断を分けます。


目次
結論:近くにいる可能性を、研究の「89m」で決めないでください
猫がいなくなった時、「家の近くにいるはず」と思える数字がほしくなるものです。でも、外に出る飼い猫をGPSで追った研究の89mは、脱走した猫の捜索半径ではありません。
その研究は、普段から外に出て家へ戻る猫の移動を測りました。脱走後に驚いて隠れた猫、知らない場所でいなくなった猫、帰り道が分からなくなった猫を追跡していません。89m以内だけを見て捜索を終えたり、帰宅を待つ根拠にしたりしないでください。今まさに行方不明なら、地域の迷子動物の案内や関係先を確認し、実際の捜索・連絡を進めることが必要です。連絡先としては、住んでいる地域の保健所や動物愛護センター、警察への届け出が一般的です。この論文から具体的な捜索手順は作れません。
研究で測ったのは「いつもの外出」
Cecchettiら(2022)は、南西イングランドで野生の獲物を定期的に持ち帰る飼い猫をGPSで追いました。利用可能なデータがあった82匹のうち10匹を解析から除き、48世帯の72匹について行動圏と移動距離を計算しています。全頭が避妊去勢済みで、調査時期は春でした。
家からの1日最大距離の中央値は89mです。これは、ある日のGPS記録で、地図上の家屋の輪郭の端から、その日に最も遠く記録された地点までの距離を猫ごとに計算した時の、72匹の真ん中の値です。89mが個々の猫の最長距離だとは示していません。
「行動圏1.51ha」も、家を中心にした円ではありません
研究は、GPSの点を使って普段の95%行動圏を推定し、中央値1.51haと報告しました。行動圏は面積で、家からの距離ではありません。庭、道路、建物などの配置に沿い、形も猫ごとに変わります。
面積を円に直して地図へ描いても、脱走猫の居場所が分かるわけではありません。中央値には狭く歩く猫と広く歩く猫の両方が含まれます。17.3haという大きな行動圏の1匹は、モデルへの強い影響から解析から除外されています。
この研究が答えていない三つの問い
脱走直後はどこへ行く?
この研究は脱走イベントを観察していません。突然外へ出た時の驚き、隠れる場所、時間とともに変わる移動は測っていません。
いつ帰ってくる?
帰宅までの日数や帰宅率を記録した研究ではありません。「近くにいるから自然に帰る」と予測する根拠にはなりません。
どこまで探せばよい?
家からの1日最大距離は普段のGPS記録であり、発見場所の分布ではありません。89mや1.51haを捜索の終了線にはできません。
外出管理を考える時には参考になる
普段の外出については、制限なく出られる59匹の群で、制限のある13匹の群より行動圏と移動距離が大きい関連が報告されました。ただし、外出条件を無作為に割り当てた比較ではなく、制限方法も家庭で違います。「夜間だけ室内にすれば自分の猫の行動圏が75%縮む」とは言えません。
同じ研究グループの狩り対策研究では、持ち帰り獲物数を扱いました。本研究のGPS移動とは違う結果です。鈴や遊びだけで遠出を防げるとも、この論文からは言えません。
よくあるご質問
Q. うちの猫も89m以内にいる可能性が高いですか?
この研究から、その確率は計算できません。89mは普段から外へ出る猫の、家からの1日最大距離の中央値で、脱走猫の発見場所の分布ではありません。
Q. 行動圏が小さいなら、待てば戻りますか?
帰宅までの日数も、待った場合の結果も調べていません。行方不明の状況なら、この数字を理由に対応を見送らず、地域の迷子動物に関する案内を確認してください。
Q. 外出を制限すれば脱走は防げますか?
研究では普段の外出管理とGPS移動の関連を見ましたが、脱走の発生率や防止策の効果は比較していません。脱走防止は別の根拠で考える必要があります。
管理人のコメント
初めて自分で迎えた猫を、外へ連れ出した時に見失い、それきり会えなかったことがあります。今も後悔が残っています。「近くにいるはず」と思える数字に頼りたくなる気持ちは分かりますが、だからこそ、研究の数字で探す範囲を狭めないでほしいと思います。