GPSは何を測った?——行動圏と『家から何m』の違い
72匹のGPS結果で示された面積、家からの1日最大距離、1日総移動距離を分けます。

導入会話
マロン学長「1.51haに89m、884m……みんな『どこまで行くか』の数字に見えて、こんがらがっちゃうよ。」
いち教授「面積、家からいちばん遠い場所、歩いた道の合計。単位と測り方を分ければ読みやすくなるよ。」
この回でわかること
- 72匹に至るまでの除外
- 三つの移動指標の違い
- GPSの記録間隔と誤差
72匹はどんな猫だった?
GPSデータが使える82匹のうち、移動の記録が安定しなかった9匹と、行動圏が17.3haで解析へ強い影響を与えた1匹が除かれ、72匹が残りました。全頭が避妊去勢済みで、雌30匹・雄42匹。農村53匹・都市19匹です。屋外アクセスの制限なしは59匹、ありは13匹でした。
GPSは15分に1回位置を記録する設定で、平均位置誤差は約10mと見積もられています。介入前の装着は平均8.9日、介入期は平均7.5日でした。猫の一生の歩き方を連続で記録したわけではありません。
GPS本体は4.4×2.7×1.3cmで、カバー込みで26g。防水材と首輪を合わせて41gで、猫の体重の2%未満に収めています。首輪は引っかかった時に外れるクイックリリース式です。あり得ない速さで動いたことになる記録は、15分で1.5kmを超える移動などを目安に取り除かれました。追跡期間中に移動が一定の範囲に落ち着かず、決まった行動圏を持っていないと考えられた9匹は、解析から外されています。
1.51haは、普段使った範囲の「面積」
研究者は、GPS記録の時間的な関係を考慮して、95%の行動圏を推定しました。その中央値は1.51ha、真ん中の半数が入る四分位範囲は0.76〜2.38haです。よく使う中心域(50%)の中央値は0.20haでした。
行動圏は面積であり、家からの半径ではありません。形は円とは限らず、道路や建物、庭などに沿って不規則になります。
89mと884mは別の「距離」
家からの1日最大距離は、その日記録された位置のうち、地図上の家屋の輪郭の端から最も遠い点までの距離です。中央値は89m、四分位範囲55〜138mでした。
1日総移動距離は、記録された地点と地点の間をつないだ距離を足したものです。中央値884m、四分位範囲543〜1353m。近所を何度も行き来すれば、家から遠くへ行かなくても合計は長くなります。15分間隔なので、地点間の細かな曲がり道までは見えません。
マロン学長「同じ日に家のそばをぐるぐる歩いたら、いちばん遠い距離は短くても、合計は長くなるんだね。」
他の研究と比べると
著者らは、この行動圏と中心域が他の家庭猫の研究とおおむね整合し、小さめだったとしています。導入部で引かれた米国などの876匹の研究では平均3.6haでした。過去の研究では雄の方が雌より、未去勢の雄の方が去勢した雄より広く、高齢の猫や都市の猫の方が狭いという傾向が報告されていましたが、この研究では性や居住地による行動圏の明確な差は見つかりませんでした。5歳を超える猫では、家からの最大距離が21%、1日の移動距離が18%短めでした。
今日からできること
- 面積・最大距離・総移動距離を混同せず、それぞれ何を測ったか確認する
- 中央値を「うちの猫の上限」と思い込まない
まとめ会話
いち教授「面積と二種類の距離を、同じ『何m以内』へまとめない。中央値はすべての猫の最大値でもないよ。」
マロン学長「数字の名前を見てから読むようにするよ。」
次回予告
外出制限なし59匹と、制限あり13匹の違いを読みます。
参考文献
Cecchetti M, et al. (2022). Conservation Science and Practice, 4(2), e597. https://doi.org/10.1111/csp2.597