脱走した猫を探す時、1.51haを地図に描かない理由
普段のGPS行動圏を脱走後の捜索半径や帰宅確率に変えられない理由を整理します。

導入会話
マロン学長「もしぼくが外で見つからなくなったら、1.51haを地図に描いて、その内側だけ探せばいいの?」
いち教授「その使い方はできないよ。行動圏は普段のGPSから推定した面積で、脱走後の居場所の境界線じゃないんだ。」
この回でわかること
- 行動圏を捜索半径へ変えられない理由
- 研究の対象と脱走状況の違い
- 数字を使わずに残せる学び
面積を円へ描き直しても、正解にはならない
1.51haは、72匹の95%行動圏の中央値です。各猫のGPSの点から推定した日常的な利用域で、家から一定の半径を描いたものではありません。道や庭に沿って形が変わり、猫ごとにも異なります。中央値より広く動いた猫もいます。
89mも、72匹の「家からの1日最大距離」の中央値です。しかも家の中心ではなく、地図上の家屋の輪郭の端から測っています。89mより先へ行かないという境界ではありません。
面積の中央値も、距離の中央値も、行方不明になった一匹の場所を示しません。
脱走後の行動は観察されていない
研究の猫は、外へ出ることに慣れ、獲物を家へ持ち帰っていました。脱走直後の驚き、知らない場所への移動、物陰に潜む行動、周囲の交通や人の動きは、この研究の対象外です。帰宅する割合や、捜索開始までの時間と発見率も測っていません。
マロン学長「『この研究の猫が普段使った場所』と『今いない猫がいる場所』の間には、大きな飛び越えがあるんだね。」
数字を使うなら、外出管理を考える場面で
研究から読み取れるのは、屋外アクセスの管理が違う群で移動の広がりに差があったこと、そして狩り対策を移動対策と同一視できなかったことです。これは、普段の外出のさせ方と屋外環境を考える時の材料になります。ただし、外出管理の因果効果や猫の福祉への影響まで本研究だけで決められません。
猫がすでに行方不明の時は、この数字を使って「まだ近くにいるはず」「明日帰るはず」と決めつけないことが最優先です。具体的な捜索・連絡の方法は、脱走対応の情報源や地域の関係先で別に確認してください。
著者らが挙げた選択肢と、その限界
著者らは考察で、猫の屋外での移動を抑える選択肢は、捕食を減らす選択肢ほど多くないと述べています。屋内にいる時間を増やすなら、隠れ場所や、遊び・狩りに似た行動の機会など、屋内環境を充実させる余地がある。囲いのある屋外空間で隠れる・遊ぶ・運動する機会を用意することも実務上の案として挙げられています。一方で、自由な外出に慣れた猫が部分的な屋内生活に移る時に問題を経験する可能性にも触れています。ただし、この研究は屋内化した後の猫の福祉や、特定の環境づくりの効果を直接測っていません。
研究の資金は野鳥保護の団体から出ており、フードと首輪のメーカーは割引価格で製品を提供し、フードのメーカーは対照群向けの景品も提供したことが開示されています。全データは公開されています。資金の出どころは結果を無効にするものではありませんが、研究の問いが「野生動物の保護」から立てられていることは、読む時に頭に置いておきます。
この講座で決めないこと
- 脱走した猫の捜索範囲や帰ってくる見込み
- 夜間の外出制限が猫の福祉や事故に与える効果
- 特定の首輪・フード・おもちゃのすすめ
- 外に出す・出さないという飼い方の判断
これらは原著が測っていない、または観察的な関連にとどまる範囲です。
今日からできること
- 脱走時は研究の数字で捜索範囲を区切らない
- 地域の捜索情報・専門家へ早めに相談する
まとめ会話
いち教授「研究は何も教えてくれないわけじゃない。でも、測っていないことまで答えたことにはできないんだ。」
マロン学長「普段の移動を知る研究として読み、もしもの時の捜索地図にはしないね。」
講座のまとめ
南西イングランドの外に出る飼い猫72匹をGPSで追った研究では、行動圏の中央値は1.51ha、家からの1日最大距離の中央値は89mで、外出に制限のない猫は制限のある猫より行動圏が75%広く、狩りを減らす五つの介入はどれも移動範囲を縮めませんでした。もともとの外出管理が違う群の比較で、脱走した猫の行動は調べていません。普段の外出のさせ方を考える材料として読み、行方不明の時の捜索地図には使いません。
参考文献
Cecchetti M, et al. (2022). Conservation Science and Practice, 4(2), e597. https://doi.org/10.1111/csp2.597